03-09-01 : ひとこと言わせて頂けば「イエスマン経営」(弁護士原 和良) 

先日、5年ほど前の依頼者Aさんが、事務所に定年退職の挨拶に訪れた。Aさんは、ある中堅企業に事務職として勤務していたが、社長のいじめにあい、仕事を取り上げられトイレや社員寮の掃除を一日中させられていた。社長は他の従業員にわざとトイレの便器外に糞尿をこぼすように指示するなど、退職に追い込もうとしていた。

 裁判は、和解により解決したものの、Aさんは片道2時間半もかかる田舎の営業所に配転になり、職種も営業職に転換された。配転先の営業所長は次期社長をねらう野心家で、社長に取り入ろうと、陰に陽にAさんをいじめた。気管支が弱くぜん息気味のAさんに対して、ヘビースモーカーであった所長はわざとたばこの煙を吹きかけるなど陰湿な人権侵害を行った。しかし、Aさんは会社トップの売上を上げたため、会社はAさんを解雇することができなかった。
昨年、社長は中国から粗製部品を安く輸入しこれに国産品のラベルを貼り替えて出荷していたことが発覚して逮捕され社長を辞任した。営業所長は、肺ガンで亡くなった。Aさんに「因果応報。悪いことはできないよ」と言ったそうである。
会社は人事刷新、今再建に取り組んでいる。退職を迎えたAさんは本社に呼ばれ、新役員から「いろいろ苦労もあったでしょうがよくがんばりましたね」とねぎらいと感謝の言葉を送られた。
イエスマンを側近に集めての経営は楽かもしれないが、いつかは落とし穴にはまる。社長の奥さんの顔色をうかがわないと仕事ができない会社もあるが、これでは従業員の志気は上がらない。経営者の本当の器が試される。

(弁護士原 和良「ひとこと言わせて頂けば」2003.9掲載)

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