04-12-01 : ひとこと言わせて頂けば「出所後の生活援助」(弁護士原 和良) 

1 先月は、刑期を満了したある男の世話で時間をとられた。男は、3年前に強制わいせつで2年6ヶ月の懲役刑となり、刑務所から出所してきた。家族(80才の母親)は、年齢的にも経済的にも出所後の男の面倒は見れないと身元引受人を拒否したため出所しても身寄りがない。

2 犯罪者予防更正保護法という法律があって、このような身よりのない人の社会復帰を援助するため更正緊急保護手続きというのがある。出所しても住むところもないので、更正保護施設で宿泊の援助などを行う。しかし、この援助を受けるには、身柄を拘束された事件を深く反省し、善良な社会人として更正する意思を強く持つとともにそのための努力をする人、という条件がある。
男は、冤罪を主張し、反省はしていない。なおかつ、統合失調症の既往歴があり事件はその影響もあるようだ。案の定、更正緊急保護の申し出は拒否された。
3 しかたなく、福祉事務所に生活保護の申請にいった。生活保護は、住居が定まらないと受給対象にならない。住居のない男は保護も拒否された。住居がない程困っているのだから、一層保護の必要性が高いのに、お役所の発想は逆みたいだ。
4 このやりとりを通じて、日本では犯罪者の社会復帰が如何にむずかしいか、行政のサポートがいい加減かということがよくわかった。結局、受け容れる家族のない犯罪者は、出所してもどこにもいくところがない。それでも、生きていこうと思えば、もう一度犯罪を犯して刑務所に戻るしかないのだ。国が、犯罪を助長しているようなものだ。これは、元犯罪者の人権問題であると同時に、われわれ市民にとっても恐ろしい人権侵害だ。罪を償った元犯罪者がもう一度犯罪を犯すしかない立場に追い込むという政策がとられているとすれば、われわれは安心して生活することはできない。
この男も、また刑務所に帰っていくのだろうか。人権後進国である実態をまた一つ勉強させられた。

(弁護士原 和良「ひとこと言わせて頂けば」2004.12掲載)

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