14-11-30 : となりの弁護士「最高裁マタハラ判決の波紋」(弁護士原 和良)

1 さる10月23日、最高裁判所第一小法廷は、マタニティハラスメント(マタハラ)に関する、原審破棄差し戻しの判決を下し、大きな話題となっている。

この事件は、広島にある病院で副主任の職位にあった理学療法士が、労働基準法65条3項に基づく妊娠中の軽易な業務への転換に際して副主任を免ぜられ、その後育児休業の終了後も副主任に任せられなかったことから、使用者である病院に対して、雇用機会均等法9条3項違反(事業主は、女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。)として、降格の無効、管理職手当の支払い及び損害賠償を求めた事案である。

2 最高裁は、均等法の趣旨に照らして、女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき、又は事業主において降格措置の必要性があり、その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして法の趣旨に反しないものと認められる特段の事情が存在するとき、にはじめて有効となるという極めて、厳密な解釈を行い、本件については、女性の自由な意思に基づいた承諾がない、降格措置の必要性の内容や程度、病院における業務上の負担の軽減の内容や程度を基礎付ける事情の有無など特段の事情も明らかにされていないとして、審理不尽とした。

この判決は、これまでの最高裁の各種の労働事件判決に比較すると画期的な判決であると言ってよいだろう。

3 すでに、本判決を受けて、様々なコメントが法曹界や経済界・労働界から出されている。妊娠・出産・育児・介護を理由とした不利益扱いは原則として違法という流れが定着していくことは間違いないであろう。しかし、私は、今回の判決がそれにとどまらない大きな意味を持っていると感じている。

第一に、どれだけ短期的に利益を上げるかという資本の論理に基づく一面的な価値観自身を、持続する社会、持続する会社という価値観へ転換すべきことを企業に求めることになるだろう。

第二に、それは、日本文化・企業文化の転換という意味において、働く者(労働者)も含めた働き方、生き方の見直しにも問題を提起するものであろう。自分よりも短時間で働く仲間、病気や障害のため「非効率」な働きをする仲間、日本文化・常識になじまない仲間について、長期的な視点で、ひいては世代を超えた視点で、助け合い、補い合い働くことについて、これを受容する価値観を、経営者のみならずそこで働く労働者も是とする文化が醸成されなければ、仲間通しの足の引っ張り合いが生じてしまう。

違う者を受容し、共存し、共栄していくという、新しい価値観を創造すること、であると私は思う。

以 上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2014年11月号掲載)

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