14-07-31 : となりの弁護士「嫌われる勇気」(弁護士原 和良)

1 アドラー心理学をテーマにした岸見一郎氏と古賀史健氏の著書「嫌われる勇気」(ダイヤモンド社)が、ベストセラーになっている。

哲人と人生に悩む青年との対話形式で、人生の意味を説く自己啓発本の一種である。対話形式の本は苦手で、しかも「嫌われる勇気」という逆説的なタイトルは、当初関心を遠ざけていたが、周囲の友人たちが、読んでおもしろかったと絶賛するので、買って読んでみた。確かにおもしろい。

2 アルフレッド・アドラーとは、フロイト、ユングと並び3大巨頭と称される心理学者である。フロイトやユングが、現在のある人の状態を過去の「原因」から分析、解明するいわば「静」の心理学であるとすると、アドラーは、過去の「原因」を否定し、現状をその人が選択した「目的」から分析、解明するいわば「動」の心理学ということができるだろう。

3 少しショッキングな話であるが、いわゆる「引きこもり」は、その状態が、過去のトラウマに原因があるのではなく、「引きこもる目的があるから引きこもる」ととらえる。「不安だから、外に出られない」のではなく、「外に出たくないから、不安という感情をくるり出している」と考える。やや単純化しているが、新鮮な問題のとらえ方だと思う。

4 えてして人は現状の自分に不満を抱き、変わりたいと思いながら変われない。人間関係や仕事に関するこのような青年の悩みに対して哲人はこう断言する。

「人はいつでも、どんな環境に置かれていても変われます。あなたが変われないでいるのは、自らに対して「変わらない」という決心を下しているからなのです。… 少しくらい不便で不自由なところがあっても、今のライフスタイルのほうが使いやすく、そのまま変えずにいるほうが楽だと思っているのでしょう。もし、『このままのわたし』であり続けていれば、目の前の出来事にどう対処すればいいか、そしてその結果どんなことが起こるのか、経験から推測できます。…一方、新しいライフスタイルを選んでしまったら、新しい自分になにが起きるかもわからないし、目の前の出来事にどう対処すればいいかもわかりません、未来が見通しづらくなるし、不安だらけの生を送ることになる。もっと苦しく、もっと不幸な生が待っているのかも知れない。つまり人は、いろいろと不満はあったとしても、「このままのわたし」でいることの方が楽であり、安心なのです。… ライフスタイルを変えようとするとき、われわれは大きな“勇気”を試されます。変わることで生まれる「不安」と、変わらないことでつきまとう「不満」。きっとあなたは後者を選択されたのでしょう。

なかなか本質を突いた指摘である。

以 上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2014年7月号掲載)

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