14-02-28 : となりの弁護士「英語、交渉、文化についての考察」(弁護士原 和良)

1 2月にタイに出張に行って、いくつかの契約案件について英語で交渉を行う機会があった。交渉は、日本語でやるのも難しい。相手の持っている情報や意向、認識を確認しながら、どのような提案をしたら、WIN=WINの合意ができるか、言葉を一つ一つ選択しながら合意に近づいていく作業である。ましてや、そもそも「言葉」と「表現」の引き出しが少ない、英語で交渉することはそれだけでも骨の折れる仕事である。

2 とはいっても、双方、英語を母国語としているわけではない。コミュニケーションのツールとして英語を話しているわけで、そこで交換されている情報と認識には、決して西欧の文化ではなく、日本人的「常識」とタイ人的「常識」が色濃く反映されている。

3 タイは、時間の感覚が日本と大きく違う。日本を含め西欧的時間の概念は、今日という日は一日しかこない、今という時間は今しか存在しない貴重なもの、という感覚があり、約束の時間には極めて厳格である。それが、正しい価値観だとして疑わない。しかし、もともと東洋的な時間概念は、時間はぐるぐる回っており、永遠に輪廻するもの、という感覚に根ざしており、ある意味でおおらかであり、ある意味でルーズである。

今回も、午前10時のミーティングが開始直前に15時半に変更され、実際に始まったのは16時過ぎからになった。結局そのミーティングは時間切れとなり、翌々日の10時に続開となったものの交渉相手は12時半に現れるなど多少面食らったきらいもあるが、相手はミーティングを軽視しているわけでもなく、悪気もない。

そして、会議室での意見の交換だけではなく、昼食をとりながらあるいは、ディナーで一緒に飲みながらお互いのバックグランドや価値観を世間話を交えて交換し人間的評価を重ね、信頼関係を作っているという交渉態度は、東洋的遺伝子を共通する私には決して不快なものではなかった。

4 ダイバーシティ(文化的多様性を受け入れる考え方)は、文化や価値観に序列を付けるのではなく、自分の価値観(自分の育った環境・教育の中で無意識にすり込まれた常識)からの判断を留保して、自分と異なる価値観、文化を受け入れる、少なくともまずは受容して理解しようとすること、そして共存を試みるという思考態度である。

そこから、新しいビジネスチャンスが生まれるし、無用な国家間の対立も回避できるはずである。新しい分野で自分を試し、自分の常識が限られた一部の領域でしか通用しないものであることを知ることは、大変刺激になる経験である。

以 上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2014年2月号掲載)

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