13-12-27 : となりの弁護士「司法修習生の給与廃止は憲法違反」(弁護士原 和良)

1 会社には、取締役による違法な業務執行を監督し、是正する役職として監査役という制度がある。ある会社が、会社運営に口うるさいことをいう監査役は業務妨害だ、といって監査役報酬を支払わないことにした。その結果、有能な人は誰も監査役を引き受けてくれなくなった。この会社は、その後どうなるだろうか?

こんなことが今日本の司法界で起こっている。2011年11月に司法修習が始まった新65期司法修習生から給与が廃止された。現在修習生は、無給で1年間の研修を行っている。

2 かつて修習生は、公務員に準ずる身分を与えられ、裁判所法により給与(給費)が支給されていたが、法曹人口大幅増政策の下、主に財政上の理由から司法修習期間が短縮され(2年から1年)、給費支給は廃止されるに至った。司法試験合格者が激増しても裁判官、検察官が激増したわけではなく、司法修習生の約9割は民間人である弁護士になることもあり、何故民間人育成の修習に国の税金を払う必要があるのか、ということが俗耳には入りやすいが、そこには冒頭に述べた重大な問題がある。

3 憲法は、権力の腐敗と濫用を防ぐため三権分立の制度を取っており、裁判所には、行政、立法をチェックし、権力を牽制するため司法権の独立(裁判所の独立と個々の裁判官の独立)が付与されている。しかし、三権分立を担保するには裁判所、裁判官の独立だけでは足りない。憲法は、刑事司法に関し、弁護人の選任権(34条、37条3項)を規定している。また、民事司法についても、国民に裁判を受ける権利を保障しているが(32条)、裁判制度は当事者主義訴訟を前提としていることから、裁判を受ける権利の実質的保障には、法律の専門家である弁護士の助力が不可欠である(裁判官が民事訴訟、職権的に権利侵害を社会から探索して民事裁判を起こすのではなく、国民が訴訟提起を行うのである)。複雑困難な裁判を、素人の国民がたたかうのは、外国で通訳なしの裁判をたたかうのに等しいことである。

弁護士には、弁護士自治が保障されており(弁護士法)、国家(行政権や司法権)からの干渉を受けないことも司法権を担保するために必要不可欠な制度である。

4 このように弁護士は、国家の司法権の一翼であり、憲法の構成要素となっている。何故、国家に歯向かう弁護士の卵を国家予算で育てるのか、と昔から権力者はこの給費制度を攻撃してきたが、国家に歯向かう(権力をチェックする)ために憲法が弁護士制度を必要としているからに他ならない。そうだとすると、弁護士を含めて法曹を育成することは憲法上の国家の義務であり、その制度が司法修習制度なのである。

会社における真の監査役の役割を憲法は弁護士に付与しているといえよう。だから、弁護士を含む法曹は、国が身分を保障して養成しなければならないのであり、その中核は言うまでもなく、研修中の生活保障であり、給費の支給である。

5 昨今、法曹を目指す人々(法科大学院志願者、法学部志願者)が激減している。2年~3年の法科大学院の学費を併せて1000万円を超える借金ないし投資をしなければ(あるいは投資をしても)法曹になれない、という現実を見れば、給費制廃止の政策的間違いは明らかであろう。これでは、お金がない人は法曹になることを断念せざるを得ない。これも憲法の弱体化であり国家の衰退である。

以 上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2013年12月号掲載)

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