12-07-31 : となりの弁護士「無罪を出す裁判官」(弁護士原 和良)

1 2年前に東京高等裁判所統括判事を最後に裁判官を定年退官された原田國男先生(現慶應義塾大学法科大学院客員教授、弁護士)が、「逆転無罪の事実認定」(勁草書房)という本を出版された。

周防正行監督が、本の帯を書かれていたので、もしやと思い、本を手に取りめくったところ、私が弁護人の一人を務めた痴漢えん罪事件の逆転無罪判決についての原田元裁判官の回想的解説と判決書も掲載されていた。法廷で必死にたたかっている時は、無我夢中であったが、法壇に座っている裁判長が、あの時こんなことを考えていたのか、と知る貴重でめずらしい資料である。

2 この事件を一審から応援してくれた周防監督の帯には、「被告人は、無罪」~法廷に響いた原田さんの声をボクは決して忘れない。~とある。同じ法廷で同じ言葉を聞いた私も全く同じ気持ちである(判決後、監督はあの痴漢えん罪を告発する映画にクランクインする)。

原田先生は、この本の中で、「判決の宣告で一番心に重いことは、真実を知るものが神様のほかにいることである。目の前の被告人が、判決が正しい判断であるか否かを知っている。…もし、本当は無実なのに有罪とすれば、その瞬間、真の犯罪者とすべきは、被告人ではなく、裁判官自身である。」と述べる。

官僚司法制度の下、無罪判決を出す裁判官は、「無罪病」と揶揄され出世コースから外されていくと言われる中で、原田先生の無罪判決は、このような低次元の批判を物ともしない重みがあった。

3 掲載された判決書について、原田先生は、「人権のために一生懸命やってくれた弁護人に感謝の気持ちを込めて判決書の弁護人名は、あえて実名で掲載した」と述べられ、私の名前も掲載されている。

弁護士になってよかったと心から思える事件は、決して報酬の多寡とは関係ない。この逆転無罪判決事件は、私にとってそう思える感慨深い事件の一つである。

法律専門家向けの本ではあるが、原田先生のお人柄がにじみ出る著書で、弁護士・法律研修者のみなさんはもちろん、一般のみなさんにも是非読んでほしい本である。

以 上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2012年7月号掲載)

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