09-02-28 : となりの弁護士「危機意識」(弁護士原 和良)

1 不況になり、「危機感を持て」、「危機意識の共有」ということがよく語られる。危機感という言葉には、厳密に言うと2つの要素がある。それは、①客観的危機の認識、と②それに対する評価、という要素である。

2 客観的危機の認識、という場合の、「危機」とは何か。それは、その組織や個人が持つあるべき姿、ありたい姿と客観的状況との解離状態である。組織や個人が、そのあるべき姿すなわち明確な理念や目標を持っていなければ、客観的危機の認識はあり得ない。わが社には、危機感がない、危機意識が共有できていない、ということがよく言われるが、そもそもその会社が何を目指しているのかが明確でなければ、危機感の共有はできないのは当たり前である。

3 危機に対する評価。これは、危機が認識できた場合に、その危機をどのような方向で克服するか、すなわち目指すべき方向との関連で問題になる動的な概念である。危機が認識できても、その原因と克服方向が明確にならなければ、危機は下り坂を転げ落ちるように深くなるだけである。従業員は、泥船と運命をともにしたくないという気持ちになり、次々に退職していく。危機を認識すらしていないものだけが、社内には居残ることになる。

4 危機を正しく共有し、それを正しい方向に脱しようとすれば、危機は次の飛躍へのチャンスに転嫁する。「不況こそチャンス」という言葉は、まさにこのことを意味している。
先日、プレジデント社の藤原昭弘社長の話を聞く機会があった。雑誌取材を通して多くの会社の経営者を取材し企業を見てきた彼が、座右の銘にしている「49:51の法則」という話に感銘を受けた。伸びている会社(人)と伸び悩んでいる会社(人)との間には、人間としての基本的な能力にはほとんど差がない。両者の差は、49点と51点とのわずか2点の差だという。「勝ち負け」を決める50点の分水嶺を越えるため、この2点のわずかな努力の積み重ねを、緊張感をもって、毎年、日々、毎分、毎秒、意識的に努力しているか、それが企業の栄枯盛衰を決めているのだという。逆に「勝ち組」であっても、油断してプラス2の努力を怠ると、すぐに49点になってしまう。

5 危機だ、危機だと叫ぶのは簡単だ。しかし、危機は、むしろ組織を構成する一人ひとりの心の中にある。その中で、舵をとる経営者の責任は重いものがあるのである。

以 上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」2009.2掲載)

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