07-11-01 : となりの弁護士「『司法』解剖~弁護士が語る良い弁護士の見分け方~」(弁護士原 和良)

【良い弁護士の条件】
良い弁護士と判断するのは、本来、依頼者の方々ですが、今回は弁護士の視点から述べてみたいと思います。
依頼者の相談について、解決への道筋が明確で分りやすいかどうかが第一です。その上で「勝てますよ」など、良いことだけを言うのではなく、リスクも含めてきちんと説明をすることです。依頼の多くは、依頼者の話だけを聞いて引き受けるわけで、それだけで「大丈夫」などと言うと、大変なことになる場合が多々あります。
二つ目には、費用や報酬が明確であることです。弁護士は、依頼者から報酬について聞かれたら答える義務があります。最近は、インターネットで大体の法律知識は分るようになってきました。交通事故などでも、どんな場合にいくら賠償金が貰えるかなど数字や条件を入れれば出てくるものまであり、かなり勉強してから相談に来る依頼者が増えています。さらに、最近増えているのが、相見積りをする依頼者です。「あそこの先生はこれぐらいの費用やってくれるといっていましたが先生はいくらでやってくれますか?」と依頼者から聞かれる。今や、裁判になったらいくら、報酬は取れた場合にいくらということをきちんと説明することが当たり前になりました。
三つ目には、フットワークが軽いということです。たとえば、私の場合、交通事故の依頼を受けたときには現場に行きます。現場に行かずに写真や資料だけでは、分らないことがたくさんあります。億劫になると、「この場合はこんなもんだ」と判断するようになり、大きな間違いを起こすことにもなりかねません。また、もっと良い訴訟ができたはずなのに、そこそこしかとれないという場合も出てきます。もちろん、弁護士の中には経験豊富な方々もいますので、一概には言い切れませんが…。
四つ目には、会社の中でもよく言われることですが、「報告・連絡・相談」をきちんとしてくれるかどうかです。十数年前までは、「俺に任せておけばいい」と言われて、費用も何も分らず弁護士に依頼をするケースが当たり前でしたが、弁護士が増え競争が生まれる中で求められていることです。事件を受けてから裁判がどこまで進んでいるのか、ここで和解するかもう少し継続するのかなど、選択、決断をする場面が出てきます。必要な時には、きちんと依頼者と相談をして決めているかどうかが大切なポイントだと思います。

【困った依頼者】
視点を変えて、困った依頼者についてお話したいと思います。
一番困るのは、自分にとって不利な事実を教えない依頼者です。そのままだと、訴訟を起こした後で大変な目にあいます。病気の治療と一緒で、ここが痛い、こんなことをしたからこうなったと、全て話してもらわないと対処できないのです。通常、事件やトラブルになるのは、相手とこちらとの両方に非があるケースがほとんどです。相手が100%悪い場合は、訴訟にならないことが多いのです。「お前が悪い」「いや、そっちが悪い」と両方に言い分があってトラブルになる。その時に、こちらにもこういう非があるかもしれないと不利な事実も教えてもらわないと、相手から攻められたときの方針が立てられません。そんなことが重なれば、弁護士との信頼関係が崩れ、依頼者と弁護士が喧嘩をしたり、時には、途中で辞任をすることにもなりかねません。私たち弁護士にとって裁判所や相手(代理人)というのは、敵であって敵ではないのです。ある意味で本当の敵は依頼者なのです。
また、細かすぎる依頼者、一から十まで指示をする依頼者というのも困ります。しかも、その指示が的を射ていないことが多いのです。弁護士は依頼者の代理人ですから、一定の判断を任せられた立場のはずです。結論に向かって、時には、相手に多く請求を出したりだとか、時には、もう一度持ち帰ってこちらも譲歩できないか依頼者と相談したりする「裁量」がないと単なるメッセンジャーとなってしまいます。ところが、依頼者からの指示というのは、けっこうとんでもないことが多い。少し舞台裏を明かすと、その場合、私は失敗すると思っても一度は言われた通りに動くようにしています。その後、失敗したのはなぜかを相談して、こうすればよかったのではないかと話して納得をしてもらうようにしています。

【依頼者と弁護士との信頼関係が最も大切】
医者と弁護士は似ているところがあります。どんな病気も事件も、最終的に解決する権利と責任は本人にあります。医者や弁護士は決して本人に代わることはできないのです。それでも本人にはできないことを代わって行います。だからこそ、病気に対する向き合い方、事件の解決の仕方について、自分の考え方や生き方、人生観とは違う医者や弁護士では依頼をしてもうまくいきません。
私は、弁護士というのは依頼者との信頼関係をいかに築けるかが一番大切だと思っていますし、実際、仕事の多くをそこに費やしています。

以 上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」2007.11掲載)

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