06-02-01 : となりの弁護士「幼ななじみへの貸金請求事件」(弁護士原 和良)

数年前に依頼を受けた事件の話である。依頼人R子は30代半ばのチャーミングな女性。わが事務所には不釣合いの美女である。東北地方の名家の一人娘で、大資産家の御曹司に嫁いだ。ブランド品に身を包み、何不自由ない生活を送っている。小学校に通う一人息子がいる。

実家の遺産相続で数億のお金を手にした彼女は、幼ななじみの妻子ある男性に、1億円を貸してあげた。借用証もある。そのお金を返してもらえないので裁判を起こして欲しいという依頼である。

担保もなしに、一介の主婦が1億円もの大金を貸す。何か見返りがあるのか、弁護士にもいえない事情があるのか、どうも特別な事情がありそうなにおいが漂う。

貸金の返済を求めて訴訟を起こした。裁判には、相手の男性が自ら出てきて、受け取ったお金は貸金ではなく贈与だという(何?贈与だと!?)。裁判官は、被告に「普通、人は何の事情もなしに他人にお金をあげたりしない。贈与であれば、何故贈与といえるのか、その事情と証拠を提出しなさい」と、諭すが、男は困った様子で沈黙する。

裁判後、男と直接話した。やはり、男は依頼人の恋人だった(私の思った通り)。R子は、良家の嫁でありながら恋人とも付き合う二重生活を送っていたのだ。驚いたことに、一人息子も実は男の子どもだという。

男の贈与の主張は認められず、判決は、R子の全面勝訴。でも、無一文の男から取り上げる財産は何もない。数ヵ月後、R子は子どもを連れて夫と離婚し,男も妻子を捨ててR子と一緒になった。R子は、大富豪から大貧民となった。でもお金はないけどなんとなく2人は幸せそうではある。

とあるフィナンシャルプランナーによると、人生で一番の経済的リスクは不倫だという。古今東西、「愛は盲目」で、分かっちゃいても、当事者にとってやめられないのはいつの時代も同じである。読者諸君もお気を付けあれ。

以 上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」2006.2掲載)

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