05-09-01 : ひとこと言わせて頂けば「人を育てる」(弁護士原 和良) 

40歳を過ぎると、人を使って仕事をする機会が増えてくる。私のかつての同級生たちも、それぞれの職場で、後輩を抱えて苦労しているという話をよく耳にする今日この頃である。

この夏、ある事件の弁護団会議で、経験2年目の弁護士が、「弁護団に新人弁護士が入ってくれてうれしい。身の引き締まる思いだ」というあいさつをしていた。自分の後輩が入ってくることによって人間は自分の占める位置を再認識し、組織の中での自覚を高めていく。これは、子どもの社会でも同じだ。小学校1年生は、1年後の4月に新1年生のういういしい後輩たちが入学してきてはじめて2年生のお兄ちゃん、お姉ちゃんとしての自覚が生まれるのである。

実は、日本型経営といわれる終身雇用、年功序列型の賃金・雇用制度は意外なメリットがあったのだと思った。今、多くの企業が雇用コストの削減のため正規雇用を減らし、減った分を派遣や契約社員、パート労働者で補うのが当たり前のようになっている。新規採用がなく、数年前に入社した新人が未だに最年少社員だという企業もめずらしくない。目先の雇用コストは確かに減るが、組織の底力は確実に減退していく。成果主義、能力主義賃金体系というのも耳ざわりはいいが実は、本来先輩として高い賃金をもらっているからという自覚の下に力を発揮してもらわなければならない人々のモチベーションを削ぎ、育てるべき人材をつぶしていくという面もある。このことを自覚している経営者は少ない。

いずれにしても、人を育てるというのは手間もかかるし、時間やお金もかかる。後輩に頼むよりも自分でやる方が仕事は格段にはかどるものである。そこを敢えて失敗を体験させたり、調査をさせたりして、時には後輩が大失敗をして自分が尻拭いをさせられたりしないと、結局人は育てられない。人を育てるのは本当にしんどい仕事である。しかし、どんな組織もそのような失敗を経験させないと組織は人を育てられないし、組織の本当の成長、飛躍はない。人を育てる力をもった人は希少価値であり、どこの組織に移っても力を発揮できる。総務畑は、転職先がない、手に技術がないと転職できない、と一時期言われていたが、そろそろ企業も目には見えない人材育成力に注目すべきであろう。

以 上

(弁護士原 和良「ひとこと言わせて頂けば」2005.9掲載)

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