05-01-01 : ひとこと言わせて頂けば「交通事故と公務員」(弁護士原 和良) 

1 交通事故は、誰もが被害者にも加害者にもなる可能性がある。ところで、公務員の場合、人身事故を起こすとかなりやっかいなことになる。国家公務員法や地方公務員法では、「禁固以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者」について、公務員に採用されない、公務員である者は失職するという規定がある(条例で救済措置がある都道府県もある)。つまり、交通事故で死傷事件を起こして起訴された場合には、執行猶予がついて刑務所に行く必要がなくても、禁固刑以上の刑であれば自動的に失職してしまうことになっている。したがって、公務員の交通事故の刑事弁護においては、有罪であっても禁固よりも軽い刑=罰金で処理してもらう必要が出てくる。

2 死傷事故といってもその態様は様々だ。確かに、飲酒や大幅なスピード違反などで起こした交通事故やひき逃げ事案であれば失職するのは納得できる。しかし、事故はちょっとしたミスでも起きるもので、同情すべきケースもたくさんある。普通かすり傷ですむ事故が打ち所が悪くて重症事故になったり、被害者側にもかなりの落ち度があったりすると、同じ業務上過失致死傷罪でも、公務員を失職しなければならないのはかわいそうになるケースもある。失職すると、退職金も出ない、住宅ローンも支払えず、子どもも進学をあきらめざるをえないなど、何とも硬直した法律制度のおかげで大変な目にあってしまう。

3 民間企業であれば、就業規則による処分ということになるが、当然起こした非行行為と処分との間に均衡(バランス)が必要とされ、解雇等の重すぎる処分は無効とされるのは裁判所の常識であるにもかかわらず、公務員の場合は、一切事情が考慮されない。これは、法の下の平等を保障した憲法14条に違反し、一種の身分による差別立法にほかならない。

4 このような不合理な実態から実務上は、公務員の交通事故については、慎重な捜査・判断を行っているようだが、あまり徹底されていない。国家公務員法や地方公務員法は、昭和20年代はじめに制定されたものだが、当時の法律は今のようなモータリゼーション社会は想定しておらず、一般庶民が自動車に乗ることはほとんど考えられていなかった。自動失職規定は、殺人、強盗・窃盗の財産罪、わいせつなどの破廉恥犯罪などを犯した公務員を規律するための規定であった。時代に合わせた法律改正が必要とされている。

以 上

(弁護士原 和良「ひとこと言わせて頂けば」2005.1掲載)

Menu