16-05-01 : 法律コラム第21回「マンション標準管理規約の改定」 (弁護士 原 和良)

1 国土交通省は、2016年3月14日、マンション標準管理規約の改定を発表した。マンションの管理は、「建物の区分所有に関する法律」(区分所有法)により規律されるが、それぞれのマンションは、一般に管理規約という当該マンションの憲法ともいうべき自主法をもって運営されており、区分所有法の強行法規(公序良俗に反するなどの趣旨から、勝手に当事者の合意でこれと異なる内容変更が無効とされるもの。例えば、組合員の議決権について、男性しか議決権を認めない、日本国籍のない者には議決権を認めない、などの規約の定めは、平等権違反であり公序良俗違反として効力は認められない)に反しない限り、管理規約の定めが優先される。
マンション標準管理規約は、複雑な権利義務関係を含むマンション運営が、一般の国民が組合員、理事等の役員となって行われるため、その指針となるよう模範例を示すものである。あくまでも模範例であり、標準規約が改定されたとしても自動的に各マンションの管理規約が改定になるわけではないし、それに従って改定義務が発生するものではない。
しかし、標準規約の改定は、わが国マンションが抱える運営上の問題点の改善に対してその解決のヒントを与えるものであることは確かであるし、今後のマンション管理及び規約改正に与える影響は大きいといえよう。また、裁判所の法解釈にも影響を与えるものである。

2 余談ではあるが、私は、弁護士になってからたくさんのマンション管理に関する訴訟に携わってきた。自身も複数のマンションの理事、顧問弁護士等に就任し、現場のマンション管理に関与してきた。「となりの弁護士」というコラムも、マンション管理組合向けの全国紙へのコラム寄稿から始まっている。
訴訟との関係でいえば、裁判官は、はっきりいって区分所有法とマンション管理をめぐる法律問題は苦手である。それは無理からぬところがある。3年ごとに転勤を重ねる裁判官は、その多くは官舎住まいでありマンションを購入して管理組合活動に携わるという機会がほとんどない。したがって、区分所有法、管理規約などある意味で外国法を見るようなもので、組合運営をめぐる住民間の対立だとか、ペット問題だとか実感もわかずチンプンカンプンである方が多い(もちろん、よく勉強されてしっかり訴訟指揮をとられるりっぱな裁判官もいらっしゃる)。いきおい、代理人である弁護士がレクチャーしながらの訴訟となることも多くあった。

3 今回の改定の背景には、マンション住民の高齢化による役員の担い手の不足、高層タワーマンションなどより複雑な管理運営が必要となるマンションの増加、経済状況を反映しての管理費滞納等による管理不全、暴力団排除、災害時の対策、などがある。
様々な改定の中で、一番注目されているのが、マンション運営への外部専門家の積極的関与、新築物件における総会議決権について住戸の価値割合による議決権の付与の許容、という2点である。

4 外部の弁護士が理事長になる!
1点目の外部専門家の積極的活用について、これまでも、外部専門家に相談、助言・指導を求めることができるとの規定は標準規約の中にもあったが、今回の改定標準規約ではさらに一歩踏み込んで、外部専門家が、理事監事等の役員に選任されることを許容する改定が行われている。ここでいう外部専門家とは、弁護士、マンション管理士、建築家、等を想定している。
マンションは、区分所有者のものであり、本来は区分所有者がその役員となるのがいわば当然の前提としての暗黙の了解があった。その暗黙の了解から一歩踏み出した今回の改定は、わが国の総理大臣は日本人でなくてもよいというくらいのドラスティックな改定だといってよい。当然、専門家といえども「いい人」ばかりではないので、外部専門家を役員に選任した場合の、監督体制、利益相反取引の規制などの必要な措置を規定している。
経験上でいうと、住民が高齢化しているマンション、賃貸比率が高いマンション(特に投資型マンションなど)、リゾートマンション、など役員のなり手がなく、住民による住民のための自治が形骸化しマンション管理が瀕死の状態であるマンションは枚挙にいとまがない。このようなマンションの管理は、結局は管理を委託した管理会社に管理の多くを頼らざるを得ないが、管理組合の管理会社に対する管理監督は形骸化し、いつの間にか管理会社の「いいなり」管理になっている例も多い。また、住民内部での対立関係が修復不可能なレベルに激化し管理組合内部で内戦状態が勃発しているマンションも増えており、外部の第三者が介入して沈静化を図らなければマンションの生活環境と資産価値は日増しに劣化していくという例もたくさん見ている。安易な外部依存は、住民自治を弱体化し、マンション管理に対する無関心化を加速化するという危惧があり、そのような観点からの外部専門家の活用に消極な意見は、全くその通りであると私も思う。しかし、原則は住民自治であるということを見失わず、必要なサポートを行うことも専門家としての使命だと考える。
とりわけ大規模マンションや商業施設が入った複合型マンションの管理、数年の年月を要するマンション建て替えなどの事業は、様々な法律問題が絡むうえ、感情面も含めた利害対立の調整が必要な業務である。
このような業務において、弁護士がその専門知識と経験を生かしてマンション管理を適正にサポートすることは、今後需要として増えてくるのではないかと思う。

5 住戸価値割合による議決権
現在のマンション管理における総会議決権は、原則として一区分所有権につき一票であり、補助的に持分による議決権割合の定めも許容されている。民主主義の原則からいうと金持ちも貧乏人も一人一票が妥当なようにも思える。他方で、民法の共有物管理に関する規定(民法252条)は、「共有物の管理に関する事項は、…各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。…」となっており、持分割合による議決権の定め、あるいは今回の改定にある持分の価格による議決権の定めの方が、合理的なようにも思える。
前者が憲法的、後者は会社法的議決権構成といえようか。
大変難しい問題であり、この改定に関しては、現在でも激論が続いており今後機会があればもう少し研究したいと思う。

6 最後に
いずれにしても、わが国で、マンションが市民の住居として普及したのは戦後、それも高度経済成長期以降である。そして、マンションが一時的な住居ではなく終の棲家として認識されたのはついこの3,40年の話である。時代に応じで社会の認識は変わっていき法律や規制も変わっていく。
他方で、何も法規制や権利調整もなされることなく「別荘地」の管理は放置され課題は山積している。ぜひ、多くの市民が「別荘地」管理問題にも関心を持ってもらい、必要な権利救済を考えていただきたいと思っている。

(参照)
・ 国土交通省の関連ホームページ
http://www.mlit.go.jp/report/press/house06_hh_000133.html
・ 改正の概要
http://www.mlit.go.jp/common/001122805.pdf
・ 単棟型マンション標準規約の改定及びコメント
http://www.mlit.go.jp/common/001122893.pdf

以 上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2016年4月号掲載)

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