17-04-04 : となりの弁護士「社会的分業と弁護士の役割」(弁護士 原 和良)

1 ビジネスとは、社会的に有用な仕事の分業であると言われる。例えば、食べ物を例にとると、農民は、人間が生きていくのに必要な食糧を社会的分業として生産し、食品加工業者はこれを最も消費しやすい形に加工する分業を行い、商社や販売店はこれを消費者の手の届きやすいところに分配し、運送業者はその輸送を担う。

 社会構造の変化が激しい現代では、その最適な分業体制をめぐり変動が起こり、競争が生じ、それぞれの分業が変化への対応を余儀なくされる。

2 私たち弁護士の分業とは何だろうか。一言で弁護士と言っても、企業法務から相続・離婚事件、刑事事件などその取り扱う範囲は広く、また最近ではトラブルを未然に防ぐための予防法務というものも注目をされており、包摂は難しく、その回答も人によりさまざまであろう。

 あえて、包摂すれば、企業や人のトラブル・ストレスを引き受け、これを緩和・解決するという分業といえるのではないだろうか。

 人の悩みは、お金・人間関係・健康のいずれかとよく言われる。完璧な人はおよそこの世には存在しないので、社会生活を送る上で必ずミスを犯す。また、ミスを犯さぬよう細心の注意をして生活していても、外部環境の変化や想定外の事態、予期せぬ健康悪化などのためにトラブル・ストレスから完全に自由となることはできない。企業もしかりである。問題のない企業、問題から自由な企業は存在しない。

3 企業や人が、その内部あるいは一人では解決できないトラブルにぶち当たった時に、社会的分業としてそのトラブルを引き受け、より打撃の少ない解決に導く役割が私たちにはあるのだと思う。

 その意味で、私たち弁護士の仕事とは、仕事そのものがいわばストレスとトラブルの塊であり、それと毎日向かい合うことになる。長年弁護士をやっているとそんなものと慣れてしまっているところもあるが、改めて考えると大変な宿命を負った職業であることに間違いない。

4 2000年以降の司法制度改革は、法曹を「社会生活上の医師」と位置づけ、社会の隅々に「法の支配」を行き渡らせるため、法曹人口(とりわけ弁護士数)の大幅な増加の必要性を掲げ、大量な弁護士を世の中に送り出した。既に、2001年に18,243人であった日本の弁護士数は、2016年には37,680人と2倍以上に激増した。社会的分業が成り立つインフラ整備がなされないままの、激増は、弁護士の貧困化を生み、法曹を目指す人たちの減少を生み、法曹養成制度そのものが崩壊の危機を迎えている。

以 上

Menu