17-05-02 : となりの弁護士「情報化社会と監視社会」(弁護士 原 和良)

1 エドワード・スノーデンの著書「スノーデンの日本への警告」(集英社新書)が出版され、友人から贈呈を受け読んでみた。

2001年9月11日のアメリカでの同時多発テロ事件は、衝撃的な事件であった。その後アメリカはテロとの闘いの名のもとに、アルカイーダの引き渡しを拒否するアフガニスタンのタリバン政権との戦争に突入する。その戦争の陰で、アメリカ政府は大規模な監視体制を敷きテロリストの摘発を進めていった。

この間、監視の対象となったのは、テロリストだけではなく、アメリカ国内のみならず全世界の一般市民をも監視の対象となっていた。

スノーデンは、当時アメリカ国家安全保障局(NSA)の情報局員であり、権力の濫用に疑問をもち、2013年6月に、国家機密を暴露する。現在は、ロシアに居住している。

2 インターネット技術の進歩により、マス・サーベーランスすなわち無差別・網羅的な監視が可能となった。もちろんそれには、通信事業者などの任意の協力が必要不可欠となる。安全保障という目的の為に、敵対国やテロ組織の情報収集・監視活動だけではなく、交渉相手国の首脳や人権活動団体、弁護士、ジャーナリストなど際限なく監視・情報収集が進められていく。その中で、ターゲットになった人物には、ターゲット・サーベランスとしてあらゆる情報収集がなされる。

ドイツのメルケル首相の電話をNSAは盗聴していたことも暴露され、大きな物議を醸しだした。

3 テロ対策というと誰も否定しにくい。しかし、そもそもテロリストが誰か、誰が将来テロリストになるかの特定はそう簡単ではない。そうなると、無限大に権力の監視の網は広がっていく。国を守るはずが、権力を守り国民を監視するという本末転倒になりかねかい。

日本では犯罪検挙数が激減しているのにもかかわらず、また公務員の削減が叫ばれている中で、唯一警察官の数だけは、増え続けている。特徴的なのは、国民の「安全・安心」を守る生活安全局の警察官数の激増である。警視庁の統計を見ると、2002年の刑法犯認知件数は約285万件であったものが、2016年には約99万件まで約3分の1に減少している。他方、2003年度の警察職員数は27万8307人、2015年度の警察職員数は、29万4667人と増えている。その中でも、生活安全・刑事・組織犯罪対策部門は、2009年4月には6万2245人と2000年4月から1万1695人も増えている。

安全を超えて安心を権力に委ねることは、人の内心まで介入することを容認することになりかねない。共謀罪(テロ等組織犯罪対策法)には、常にその不安がつきまとう。

5 日本の、年間自殺者数はピークの2003年の34,427人から減少傾向にあるとはいえ、2015年の厚生労働省の統計では、24,025人であり、子ども自殺が増える傾向にあるという。スノーデンはいう。「日本では、テロに会う確率よりも、お風呂で溺死する確率の方が高い」(2009年度 厚生労働省統計では、年間3,964人)。

この国で今目を向けるべきなのは、テロの恐怖ではなく、国民の生活と健康ではないかとつくづく思う。

以上

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