17-05-31 : となりの弁護士「痴漢冤罪と線路立ち入り」(弁護士 原 和良)

1 5月15日、東急田園都市線青葉台駅ホームで、女性から痴漢だと疑われ、駅員と対応中に線路に逃走し、ホームに入ってきた電車にはねられ死亡するという事件が起きた。ネット上でも話題になり、また複数の弁護士たちがこの事件についてコメントしている。

報道によると、JR東日本だけで、今年に入り同種の線路立ち入り逃走事案が6件も発生しているようだ。

2 痴漢事件は、その多くが朝の通勤ラッシュアワーに発生する。したがって、線路内に被疑者が立ち入ると、電車のダイヤが乱れ、多くの乗客の通勤の足に影響が出ることになる。線路内への正当な理由なき立ち入りは、当然処罰の対象となる。鉄道営業法第37条で、罰金1万円以下、刑法第125条(危険往来罪)で、2年以上の懲役、軽犯罪法第1条31号(業務の妨害)、32号(侵入罪)で、拘留(1日以上30日以下)又は科料(1,000円以上10,000円以下)など処罰される可能性があり、また鉄道会社からは莫大な民事損害賠償の請求を受ける可能性がある。

いくら、痴漢冤罪であるからと言っても、線路内に逃走する行為は本末転倒である。

3 もちろん、痴漢行為は明確な犯罪行為(刑法の強制わいせつ罪や都道府県の迷惑防止条例違反行為)であり、許されるべきではないし、厳しくその責任が問われるべきことはいうまでもない。しかし、全く身に覚えもないのに、痴漢に間違われ身体を拘束されるというアクシデントに遭遇しないとも限らない。映画「それでもボクはやっていない」の世界である。そのような場合、どのようなことに気をつけるべきであろうか。

4 まずは、どうしても満員電車に乗らざるを得ない場合は、間違われるリスクをできるだけ回避する努力をすべきである。できるだけ、女性と接触できるような位置に立たない、痴漢行為ができないことを証明できるように吊革に捕まるとかカバンを持つとかして両手を痴漢行為が物理的に不可能な状態にしておくことが必要である。

5 そして、不幸にも痴漢と間違われたらどうするか。逃亡や罪証隠滅の恐れのない限り、逮捕は認められない。落ち着いて、駅員に身分を証するもの(免許証など)を提示し、連絡先を告げ、いつでも必要な調査には協力すると告げて、その場を去るということが最も適切な対応と考える。駅事務室に行くと、その場で私人による現行犯逮捕、準現行犯逮捕としてそのまま身体を拘束されてしまう恐れがあるので避けた方がよい。その場で連絡が取れる弁護士がいれば相談の電話を入れるとよい(そういえば、先週日曜日も、現在警察に拘束され返してくれない、という相談があった)。

6 なお、私が痴漢冤罪事件に数多く取り組んでいた約20年前の状況に比べると、痴漢捜査は当時と比較すると慎重になっているようである。また、逮捕後(72時間以内)の検察官による裁判所への拘留請求も、「逃亡や罪証隠滅の恐れ」が厳格に審査されるようになり、かなりの確率で却下されるようになりました。

 

以 上

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