17-08-01 : となりの弁護士「たかがビール、されどビール」(弁護士 原 和良)

1 ビール会社のコマーシャルが先日話題になった。一つは、炎上したサントリーのビール系飲料「頂(いただき)」のキャンペーン動画である。全国6都市の出張先で出会った女性たちが、「お酒飲みながらしゃぶるのがうみぁあ」「コックゥーン!しちゃった」と話す会話が、男性目線で女性を性の対象としか見ていない、と批判が相次ぎ、一日で公開は中止になった。

サントリーにも女性社員はいるし、一生懸命まじめに働いている男性社員もたくさんいるはずで、本当に迷惑な話だ。なぜ、この動画制作の過程で、これはまずいんじゃないか、という声が上がらなかったのか、また上がったとしたらそれが会社の意思決定に反映されなかったのか、役員らは公開前に視聴して何とも感じなかったのか、組織のコンプライアンスや人権意識、時代感覚の欠如にどうしても関心が行ってしまう。会社にとっては、大きな打撃であろう。

2 他方、同じビールでも、ハイネケンが4月に発表した動画コマーシャルは、ネット上でも大きな話題になっている(https://youtu.be/8wYXw4K0A3g)。

全く違う考え方や価値観を持つ3組の見知らぬ2人が、共同作業や対話を通じて違いを認め合い、ビールを飲みながら議論を深めていくという動画だ。
フェミニズムに反対する男性とフェミニストの女性、気候変動・温暖化を信じない男性と気候変動を危惧する男性、トランスジェンダーの女性と伝統的な男女観を持つ男性。この動画は、価値観や考え方の違いは、排除するものではなくお互いの立場を認め合い、尊重しあうことこそが大事であることを教えてくれるもので、現代社会が直面するダイバーシティの重要性を気づかせてくれるものである。サントリーの動画が、世界の流れから取り残された価値観の中にあるのに対し、ハイネケンは時代を先取りする。企業風土や経営者の先見性を感じさせる見事なコマーシャルだと思った。

3 違いを認める。意見の違う人と議論する。実はこれは、日本国憲法をはじめ近代憲法が一番大切にしているコンセプトでもある。憲法13条は、個人の尊厳と幸福追求の権利を保障する。すべての人に尊厳と幸福追求権を保障するから、そこでは違う価値観や考え方を尊重しなければならない。その多様性を認めた上で、どう国を運営するかの統治のルールを憲法は定めている。

ハイネケンの動画は「人生、白黒はっきりつくようなものじゃない。」と語らせる。

「こんな人たちに負けるわけにはいかない。」では、やはりいけないのである。

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