21-09-29 : となりの弁護士「ナンバー1とナンバー2」(弁護士 原 和良)

1 昔、旧民主党政権下の科学技術予算に関する事業仕分けヒアリングの議論の中で放った「一番じゃなきゃいけないんですか。二番ではいけないんですか。」という蓮舫議員の発言が話題になったことがある。

 

2 一番か二番かは、あくまでも相対評価の問題であり、結果の問題である。
 オリンピック・パラリンピックで金メダルと銀メダルの価値にそんなに大きな差はない。アスリートにとっては、自分の全実力を出し切ることに意味があり、金か銀か銅かはその結果でしかない。メダルにどのような意味があるか、またメダルが取れなかったアスリートにとってその結果がどのような意味があるのか、それは努力した当事者が決める問題である。

 

3 他方、経営においては、私はナンバー1とナンバー2との間には、比較にならない大きな差異を感じることがよくある。最近も、とある上場企業の前副社長とお会いする機会があった。もちろん大手大企業の副社長まで務めた方だから相当な実力と人格・識見をお持ちの方で、私のようなヨタレ弁護士にも敬意をもって対応していただいた。とても立派な方だと思っている。

 

4 しかし、経営の世界ではナンバー1とナンバー2とでは、雲泥の差があると感じることは多い。特に、中小企業経営においてはそうである。それはどこから来るのだろうか。

 中小企業の場合、ナンバー1は、すべてのリスクを背負っている。ある中小企業の社長は、「自分の自宅は、会社の事業資金を調達するために金融機関のために数億円の根抵当権を設定し事業を営んでいる。私は、根抵当権の上に布団を敷いて毎日寝ている。その経営者の気持ちがわかりますか。」と私に話したことがある。

 借金と数百名の社員の生活を一身に背負って緊張感の中で毎日生きているのがナンバー1の経営者である。それに対して、多くの中小企業のナンバー2は、このようなリスクを背負っていないケースがほとんどである。そこに、事業への覚悟の違いが知らず知らずのうちに行動に出てくる。

 だからこそ、ナンバー1からナンバー2への事業の承継は、この「覚悟」のギャップを乗り越えるための壁が高く、苦労も多いのである。

 

5 今、政府の統計によれば、中小企業の経営者の平均年齢は70歳を超えている。そして、70歳を超えた経営者で事業を引き継いでくれる後継者が決まっている経営者は約5割で、残り半分は、バトンを引き渡せないでいる。
 親族や社内メンバーへの事業承継ではなく、会社そのものを第三者に売却するM&Aの比率も事業承継では増えているという。
 
 ナンバー1からナンバー2への経営の承継は、我が国の地域経済を支える中小企業にとって避けられない喫緊の課題となっている。

以上

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