1 人は感情で動く。景気といわれるくらいだから、経済も気=感情が大きく影響する。
人生において、喜怒哀楽は絶対条件であり、喜怒哀楽のない人生は、無味乾燥で人生と呼ぶに及ばないといってもよいだろう。
2 親の子どもに対する愛情や、恋人に対する恋愛感情など、このような感情には損得はない。そもそも、経済的な利害得失だけで、子育てをする親はいないし、結婚する人などいない(特別な例外はあるかもしれないが、世の中のほとんど、人類の遺伝子はそうできていると思いたい)。
フランスの劇作家アルマン・サラクルーは、「人は判断力の欠如で結婚し、忍耐力の欠如で離婚し、記憶力の欠如で再婚する」という含蓄のある言葉を残している。
3 ところが、私たち弁護士の仕事は、喜怒哀楽(怒哀がそのスタートではあるが)を扱う仕事である。アルマン・サラクルーの名言に沿って、仕事をやっていては仕事そのものが成り立たない。
弁護士のみならず、会社や組織を運営するには、喜怒哀楽では運営できないのも事実だ。
4 アメリカでは交渉学に関する研究が進んでおり、ロジャー・フィッシャー教授らが出版した「ハーバード流交渉術」(日本語訳版:三笠書房)は、日本でも交渉学を研究する人たちにとってバイブルの一つとなっている。
その中では、ビジネス交渉においては、感情とイシュー(解決すべき課題)を切り離せ、という提言をしている。
拙著「改訂弁護士研修ノート」(第一法規)の中で、私も以下のように説いた。
「人は紛争が起こると、どうしても相手の性格や態度に関心が集中し、『あんなやつとは口も聞きたくない』『あいつとは何があっても和解しない』となりがちです。しかし、交渉人は、それでは務まりません。交渉で問題となっているのは、相手の性格や態度ではなく、解決すべき客観的なイシューです。当事者では、どうしても人(に対する感情)と問題点(解決すべき争点)が切り離せなくなっていますので、それを切り離すために仕事をするのが代理人弁護士=交渉人です。人とイシューを切り離すというのが一番大事な出発点です。」(73ページ)。
5 自分の目の前に起きている事象は、本来無色透明である。その事象に色を付けているのは、受け止めた当事者の意識であり感情である。同じ事象が起きた時に、それをピンチあるいは絶望と受けとめるか、チャンスあるいは飛躍のための試練と受け止めるか、それは自分自身が決めることである。
以上