24-10-30 : となりの弁護士「日本被団協のノーベル平和賞受賞」(弁護士 原 和良)

1 今年10月11日、アルフレッド・ノーベル(1833年10月21日 –1896年12月10日)の遺言に基づいて、120年余に渡り授与されてきたノーベル平和賞が日本被爆者団体協議会(日本被団協)に授与されることが発表された。
  ノーベルと言えば、ダイナマイトを発明した科学者である。その発明は、鉱山や炭鉱の開発、トンネル掘削や橋梁の建設、都市の開発はじめ産業の発展に大きな寄与をした。しかし、他方でダイナマイトは、戦争における大量殺りく兵器としても利用され、多くの人間の命を奪うことになった。
  当初ノーベルは、大量殺りく兵器の開発は、戦争の抑止力になると考えていたようだ。しかし、ダイナマイトが戦争の抑止に働くことはなかった。
2 このような反省もありノーベルは亡くなる前年1895年にその莫大な財産を人類の発展に大きく貢献した人々を表彰する賞を与えるために利用することを遺言として残し、その遺言に基づきノーベル財団が設立された。ノーベルは、国際平和を願って、人々が暮らしやすい世界になることを望んでいたのである
3 今回の日本被団協の授賞理由はこう述べている。
  「アルフレッド・ノーベルのビジョンの核心は、献身的な個人が変化をもたらすことができるという信念であった。今年のノーベル平和賞を日本被団協に授与することで、ノルウェー・ノーベル委員会は、肉体的苦痛や辛い記憶にもかかわらず、その高価な経験を平和への希望と関与を育むために役立てることを選択したすべての被爆者を称えたいと考えている。」
4 今回の受賞は、日本被団協と被爆者の80年近くに及ぶ活動をたたえるのみならず、ノーベルの望んだ平和な世界の実現とは対極にある現代社会の現実に警鐘を鳴らすものに他ならない。
  いつ終わるとも出口の見えないウクライナ戦争、イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への虐殺行為、そこで日々起こっている人間の生きる権利への侵害は、79年前の広島・長崎の歴史の悲劇の繰り返しそのものだ。歴史に学ばない人類の一人として忸怩たる思いに駆られる。
  核と言えば、日本は、2011年3月11日の東日本大震災を受けた福島第一原発の過酷事故により、多くの市民が避難を余儀なくされ、未だ廃炉作業はスケジュールの見通しも立たず、福島の復興は忘れ去られようとしている。
  私が、訴訟に取り組む浪江町津島地区は、未だ除染作業は緒についたばかりで、地区の大部分は帰還困難区域と指定されたまま、ふるさとへの帰還の目途すら立っていない。
  人間の尊厳が第一に尊重される社会の実現に向けて、私たちはあきらめずに努力することを今回のノーベル平和賞は、示唆していると思う。

以上

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