25-06-29 : となりの弁護士「持続化給付金不支給違憲訴訟判決」(弁護士 原 和良)

1 6月16日、最高裁判所第一小法廷は、風営法で規制される無店舗型性風俗特殊営業(「特殊営業」、いわゆるデリヘル)事業者が、国の新型コロナ持続化給付金、家賃支援給付金の給付適用除外とされたことを、憲法14条の平等原則違反、同22条の営業の自由違反、として違憲・違法と訴えていた裁判で、性風俗営業事業者の上告を棄却する判決を言い渡した(*1)。この訴訟は、「セックスワークにも給付金を」とのスローガンで、公共的な訴訟をクラウドファンディングで支えるCALL4が支援していた訴訟で提訴以来注目を集めてきた裁判である(*2)。

2 国が営業を認めてきた性風俗事業であるにもかかわらず、あのコロナ禍において、「いかがわしい事業」であるからとして、給付金の支給対象から除外したことの政策の可否が問われた訴訟である。
上告人事業者は、国が許容する事業に対する不合理な差別であり、セックスワーカーへの偏見と差別意識を背景とした平等原則違反であることを強く訴えた。
  これに対し、判決は国の主張を受け入れ、デリヘルはバーや喫茶店といった飲食業などの一般の風俗営業とは異なり、事業として「健全化を観念することができない」事業であり、そのために許可制ではなく届出制となっている、「接客従業者の尊厳を害する恐れがある」(セックスワーカーの性被害のリスクがある)こと、給付金は給付対象とされない者の権利の制約を伴うものではない、などを理由として、国の裁量の範囲にある合理的な区別であって、憲法14条にも22条にも違反しない、という判断を下した。

3 この判決で光っていたのは、5人の判事のうち唯一の女性判事で弁護士出身の宮川美津子判事の反対意見である。風営法の規制の下で適法に営業を行っている事業者を本件各給付金の給付の場面で区別することは本件各給付金の趣旨及び目的と整合しない、接客サービスを提供して生計を立てる接客従業者が存在するとともに当該サービスを求める顧客も存在しており、一定の社会的な需要があることは否定しがたい、「売春」とは異なり法律上接客従事者の尊厳を害するものと位置づけられていないことも考慮すべきである、として、給付対象からの除外には合理性は認められず、憲法14条に違反する、という明快な論旨を披露している。

4 この国には建前と本音があり、とりわけ性に関する議論は「万事口論に決すべし」とはならない。人は自分の利害得失に直接関係がない事柄に対しては、例え他人が不当な差別を受けていても行動することはない。その積み重ねが新たな不合理や不平等を繰り返し許容することになり、それがいつかは自分にも跳ね返る。深く考えさせられる判決である。

 *1:https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=94179
 *2:https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=94179

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