その意味は、第一に文字通り、顧客のニーズと利益を優先しなさいという意味である。会社は、結果的に自社の利益に結びつかないと目的達成はできない。しかし、現実の社会のパラドックスは、目先の細かい利益に汲々として経営をしていたら企業は成功しないということである。偽装牛肉事件は、その典型例だろう。伸びている会社はどこも目先の利益にとらわれない将来を見据えた経営戦略をもっている。
しかし、この言葉には、もう一つの意味があるということを最近知った。それは、顧客一人ひとりが自分が多くの顧客の中で一番大事に扱われているという安心感を持ってもらう経営という意味だ。これは、弁護士として私も実感できることである。
弁護士は忙しい。100件近い事件を受任していると、すべての事件に「顧客第一」を貫いていては身が持たないのが実際である。しかし、忙しい中でも、いかに一人ひとりのクライアントから「自分の事件がないがしろにされていない」「忙しい中でよくやってもらっている」と満足してもらえるかが勝負である。経済学的には委任を受けた業務の対価が弁護士報酬であるが、人間学的には顧客の満足度の対価が報酬となる。どんなにうまくいった事件でも満足度がないと報酬はもらえない。弁護士が自分のとりっぱぐれた報酬を裁判で請求するのはバツが悪い。したがって、毎年不良債権をかかえ込んでしまう。
同じ仕事をしても伸びる企業と伸びない企業が出てくる。顧客第一主義は、すべての経営に共通する原因と結果の法則であろう。
(弁護士原 和良「ひとこと言わせて頂けば」2004.2掲載)