14-05-01 : 法律コラム第1回「『みかじめ料』はもうたくさん」 (弁護士原 和良)

「別荘地」管理費をめぐる住民の反乱

1 風光明媚な地方の山麓に開発分譲された「別荘地」(「別荘地」とは俗語で、法律上は別荘地という定義はないし、別荘地の管理についての法律は存在しない。そこで、以下では「分譲地」と呼ぶ)は、開発にあたった開発業者やその関連会社が管理会社として、分譲地を管理している。

2 何千万円という高額で分譲された分譲地は、バブル崩壊後、二束三文となり、分譲で荒稼ぎした管理会社らもどこも経営難に陥っている。管理会社は、良質の管理をうたい文句に分譲地を購入した住民から管理費を徴収し道路整備や街路樹、街灯などの共用施設の整備などを行っていたが、そのような「良質な」サービスをする余力はどこにもない。

他方で、現役時代に分譲地を購入した住民の中には、リタイヤ後、そこを終の棲家として永住する人たちも次第に増えてきている。

3 昔のようなサービスはもう必要ないし、実際に管理会社は十分なサービスをやっていない。永住している人々の中には、更に管理など全く不要である、という人々が増加している。

このような中で、管理費では管理費用が賄えない、独立採算をするために管理費を大幅値上げするという一方的な通告がなされ、住民がこれと裁判でたたかうという事件を数年前から受けている。

4 管理契約は、管理会社と住民との個別の準委任契約である。マンションの管理が、区分所有法(「区分所有建物の管理に関する法律」)という法律により、権利義務関係が整備されているのとは異なり、分譲地の管理契約はあくまで民法上の準委任契約という形式をとっている。準委任契約は、

(1)いつでも解除できる(民法656条、651条1項)

(2)委任者の死亡により終了する(民法656条、653条1号)

というのが、法律の定めである。

当事務所で取り組んだ南箱根ダイヤランドの東京高裁判決(東京高裁平成21年3月31日判決 判例タイムス1336号169ページ以下)は、準委任契約である分譲地管理委託契約は受任者の利益のための契約とはいえない(解除は自由にできる)、委任者の死亡は管理委託契約の終了原因である、ということを明快な論理で認め、分譲地をめぐる管理委託契約の混乱は、これで終止符を打ったかに思われたが(会社が控訴を断念したため最高裁での判決確定はしていない)、類似の裁判では、目下5連敗中で、今、最高裁でのたたかいが続いている。

6 裁判所の論理はこうである。

(1)管理会社の管理は、「別荘地」としての環境維持を目的として公共施設の維持管理を行うもので、他の別荘地所有者に対する義務の履行でもある

(2)個別の任意解除を認めると、契約を継続する「別荘地」所有者との間で不公平が生じ、管理業務の原資にも不足が生じ、ひいては環境維持ができなくなり、他の「別荘地」所有者に不利益が及ぶ

(3)よって、管理委託契約は、「受任者のためにもする準委任契約であり、当事者の信頼関係を破壊するやむを得ない事由や委任者が解除権を放棄したとは解されない特段の事情がない限り契約を解除できない。

7 しかし、先例となる「受任者のためにもする(準)委任契約」という最高裁判例は、別荘地管理とは全く違う特殊な事案に対する判断であり、本件の射程範囲ではない。

*ア.債務者が債務弁済方法として,自己の債権の取立や自己所有の土地の売却や債務者会社の経営を債権者に委任した事案(大判大正4・5・12民録21輯687頁,東京高裁昭和31.9.12東高時報7巻9号194頁,最二小判昭和43.9.20裁判集92号329頁)

イ.債権者が,第三者に対する貸金の取立を債務者に委任し,取立の費用は債務者に負担させる代わりに,債務者の弁済期を猶予するとともに,取立成功の暁には取立高の一割を債務者の報酬金としその報酬金をもって債務の弁済にあてることを約した事案(大判大正9.4.24民録26輯8巻562頁)

ウ.アパート管理契約において,賃借人から預かる保証金につき,受任者が委任者に対し相当高率の利息を支払い,委任者が受任者に対し当該補償金を受任者の事業資金として自由に長期間利用することを認めていた事案(最判昭和56.1.19/判例タイムズ438号93頁)

結局、裁判官の価値判断の背景は管理費を支払い続ける他の住民との不公平が生ずるというフリーライド論に帰着する。

しかし、そもそも、何故に住民は一私企業たる管理会社との契約関係継続を未来永劫強制されるか、住民の素朴な疑問には判決は応えていない。他方、住民は、国民・住民として、各種の税を納めているのであって、本来国民・住民として享受できる公共サービスを享受できるのであり、公共サービスの享受のために私企業への管理費を二重に支払う義務を強制されるいわれはない。判決の論理で行けば、管理会社はどんなに手抜きの管理サービスを行っても利用者から契約を解除されることもなく、利益を享受しつづけられるという恐ろしいモラルハザードを容認することになるのである。判決の論理は完全に破綻している。

驚いたのは、先に出た別件の管理委託契約の解除を否定した東京地裁判決が、他の裁判所で出た同種判決のコピーペーストをしたとしか考えられない全く同じ言い回しをしていたことであり、少しは自分の頭で考えよと言いたくなるものであったことだ。

8  権利が保障されず義務だけを課される契約関係というのは、本来近代市民法の下では、観念しえないものである。管理会社のもとで、対価性の乏しい「管理」を強制されることは、住民にとって「みかじめ料」を徴収されるに等しい。

最高裁を含め継続中の裁判の中で、このことに気づいてくれる普通の裁判官に出会うことを切に願うものである。

以上

(文責 弁護士 原 和良)

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