15-10-22 : となりの弁護士「所沢市育休退園処分執行停止決定」(弁護士原 和良)

1 埼玉県所沢市は、4月1日から、上の子が保育園に通う母親が下の子を出産し育児休業を取得した場合、0,1,2歳児クラスの上の子を原則として出産の2か月後の月末をもって退園させる制度改悪を行った。

2 6月25日、母親が妊娠し育児休業取得を予定している8世帯の保護者が、さいたま地方裁判所に、保育実施解除差止め訴訟を提起し、同時に仮の差止めを申し立てた。翌週には、さらに6世帯が同様の訴訟を提起した。

差止め訴訟は、現在継続中であるが、仮の差止めについては、7月23日、申し立てを棄却する決定が出された。その理由は、本件処分がされる蓋然性がないこと、その傍論として所沢市長による法の趣旨に沿った適切な制度運用がなされることが期待される、というものであった。

3 ところが、8月に入り差止め訴訟の原告であったAさんに、13日付けで保育継続不可の決定が届き、Aさんは、差止め訴訟を取り下げた上、保育継続不可決定に対する取消訴訟及び執行停止の申し立てを行った。申し立ての中で、私たちは、①本件制度及び決定が、子どもの保育を受ける権利を侵害し、児童福祉法、子ども・子育て支援法の趣旨に反する違法なものであること、②実施中の保育を突然解除する重大な不利益であり、告知期間・猶予期間等もなく、市民・保護者らとの協議もないまま導入された制度でありその手続き的瑕疵は重大であり、行政の裁量権の逸脱・濫用があること、③許可・不可決定の基準があいまいで平等原則に反すること、④不可決定処分(及びその後の「解除通知」)は、行政法2条4項の「不利益処分」にあたり、行政手続法が要請する聴聞手続きが必要であるところ、聴聞手続きが行われておらず違法であること、などを主張した。

4 9月29日付けの決定は、子どもの保育を受ける権利の重要性を正面から認めたうえで、①本来許可決定を出すべき事情がある申立人に十分な調査を行わず不可決定を出した疑いがある、②不可決定処分の後に出された解除通知が、行政法2条4項の不利益処分にあたり、聴聞手続きを経ずに行われた処分は、違法の疑いがある、ことを理由として、退園処分の執行停止を認める画期的決定を行った。

5 所沢市の保護者らのたたかいは、全国の子育て世代を励ます一方、同様な育休退園制度を導入していた自治体に制度の見直し、廃止を検討するようになったという貴重な成果を生み出した。本気で少子高齢化を食い止め、女性が社会で輝ける社会をつくるのであれば、子どもの保育請求権を国が保障し、希望すればだれでも保育園に入所できる施策をとるほかない。保育施設の物的拡充とともに、そこで働く保育士その他の職員に専門職にふさわしい待遇を保障しながら、職場での子育て支援、雇用の安定を図ってこそ、この国の未来がある。

以 上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2015年10月号掲載)

Menu