12-02-29 : となりの弁護士「売ろうとすると売れない」(弁護士原 和良)

1 経済成長期にあるときは、大量生産大量消費が続き、モノをつくれば何でも売れた。とにかく、人口ボーナス(放っておいても消費者が増えていく時代)があるので、少々商品に問題があっても、よく売れるか、それなりに売れるかの差はあるにしろ、あまり苦労はなかった。

  しかし、今や成熟した日本(欧米もそうだろう)では、一方で似たようなモノは市場にあふれ、他方で消費者は日々減少しつつある。

2 どの業種でも、売ろうとすれば売れない、消費者を貪欲に追いかけると余計に消費者は逃げているという体験を皆実感しているはずだ。

  モノが売れないと、縮小再生産になり、その結果所得が減少する。するとますますモノが売れなくなる。日本経済の長引く不況はこのデフレスパイラルの中にはまり込んでいることに一因がある。どのような解決策があるのか、私はその専門家ではないので答えを持っていない。エコノミストや政治家が、様々な発言をしているが、実行された確かな方法はまだ見つかっていないように思えるのである。

 1929年にアメリカを初め全世界を襲った世界大恐慌の中で、1933年第26第アメリカ大統領に就任したフランクリン・ルーズベルトは、大不況にうちひしがれる国民に対し、「恐れなければならないことは恐れること自体である。」と呼びかけ国民の不安感を払拭した。大統領の大恐慌と闘う毅然としたメッセージは国民全体に勇気を与え、これが経済復興のスタートとなった。今、日本は財政難の中で、消費税増税のみが一人歩きしているが、国民に不安と不満だけを与えているのは、政府や政治家に、国民のためにたたかう決意がないからではないだろうか。

3 しかし、そのような中で、いつの時代にも通用する普遍的な法則がある。人は、購入を押し付けられるとその商品がいかにすばらしい商品であっても、拒絶反応を起こしてしまうということである。このような体験は誰にでもあるだろう。

売り手側で、どうしても売りたい、売らないとノルマが達成できないという心理状態で、無理やり売ろうとすると却って売れない、ことはしばしばである。それは、売る側の心理が、顧客=自分の願望を満たすための対象物、という余裕のない心が見透かされてしまうからである。他方、買い手の心理からは、冷静に考えるとこんな大金をはたいて買う必要のないもの、なくても生活できるものを、人はついつい購入してしまう。「経済は感情で動く」という行動経済学の本が数年前に話題になったが、人間は、必要なものではなく、欲しいと思ったものを買う、傾向がある(もちろん、生活に必要な最低限のものがみたされているという前提があるのだが)。

4 これをいいことと考えるか、悪いことと考えるか、それはどちらでも構わない。しかし、もともとどんな仕事でも、我々の仕事は、人のためになって(人の要求・願望・欲望を満たしてあげてその対価をお金という形でいただく仕事)、対価をもらう仕事である。インターネット社会になっても、仕事とは生の人間の心の交信であるというところに仕事の本質があるように思う。人間は人の「間」で成り立っているのであり、モノの購入やサービスの提供と対価の支払いは、「間」を取り持つ道具に過ぎないのかもしれない。「間」は、近すぎても遠すぎてもいけない。

  「間」を大事にした仕事を心掛けたいものである。

以 上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2012年2月号掲載)

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