10-12-28 : となりの弁護士「本物の生き方」(弁護士 原 和良)

1 12月10日にオスロで開かれたノーベル平和賞の授賞式には、一つの空席があった。中国政府に表現の自由の保障を求めた「08憲章」を発表し、1989年の天安門事件の後に国家政権転覆扇動罪で懲役11年の懲役刑を受け今なお獄中にいる中国人の民主化活動家劉暁波(リュウシャオポー)である。中国政府は、劉の妻も国内軟禁状態に置き代理出席を認めなかった。

授賞式で代読された劉の文章「私には敵はない」には胸を打たれた。

「私は投獄され、私を敵とみなす政権の意識によって被告席に押し込まれている。しかし、私には敵はおらず、憎しみもない。私は、自分の境遇を乗り越えて国の発展と社会の変化を見渡し、善意をもって政権の敵意に向き合い、愛で憎しみを溶かすことができる人間でありたいと思う。」

聖書の有名な言葉「敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい。」(マタイによる福音書43)を想起させる言葉である。

2 私たちは、不況だ、倒産だ、就職難だ、相続争いだ、離婚だ、子どもが勉強しない、と次から次に人生のトラブルに悩みもがき右往左往する。他方で、同時代、同じアジアで、かくも静かにかつ深遠な闘争が繰り広げられていることに驚かずにはいられない。

今年、11月にはビルマの民主化運動の主導者であるアウン・サン・スーチーさんが、自宅軟禁から7年ぶりに解放され、自由を手に入れたときも同じ感動を味わった。

先人たちの静かな闘争が、確実に現代という社会を歴史を動かしているのだということに畏敬の気持ちを抱かざるを得ない。

3 グローバル経済は、すべてお金の呪縛からものごとの価値を図る。しかし、お金に毒された私たちに、彼ら彼女らの存在は、物質的な豊かさよりも大事なもの、本物の価値とは何かを教えてくれるようである。きらきらした装飾に満ちた偽物がこの世にはびこる中で常に本物の生き方を目指したいものである。

以 上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2010年12月号掲載),「第一経理ニュース2011年1月号掲載」)

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