一 新年早々、ネガティブなテーマで読者のみなさまには申し訳ない。
法律、契約は、すべて論理の世界である。そんな法律を扱う仕事をしている私がいうのも説得力がないかもしれないが、世の中には筋が通らないことが多々ある。
強者と弱者、不況と倒産、理不尽なリストラ、さして働きもしないのに高給が保障されている人もいれば、苦酸をなめながら不条理にさらされる毎日を送る人もいる。
こんなはずじゃなかったのに、憎しみ合って離婚訴訟をたたかう夫婦が何と多いことか。
それを解決するのが弁護士の仕事でしょうと言われれば何の反論もできないが、事件の多
くは、割り切れない不条理感といつも表裏一体であることも事実である。
二 思い通りにならないと思う人がたくさんいるから、自己啓発やスピリチュアルの本がよ
く売れる時代だ。心が安心できる何かを求めてむさぼるように読む。
でも、筋書き通り、理屈通りに進まないのがある意味では人生なのかもしれない。
どう対応すればよいのか。目の前のありのままの現実を、まずはいったん受け入れて引き
受けるしかない。目の前の困難は逃げればもっと大きくなってついてくるものだ。愚痴から
は何も生まれない。
いったん受け入れた上で、自分が悩んでもしょうがないこと、がんばれば変えられること
の「事業仕訳」が必要で、がんばれば変えられることに一所懸命とりくむことで光が見えて
くるはずである。理屈が通らないと思った時、人はどうしても理屈が通らない相手を変えよ
うと格闘するが、相手も自分に対して理屈が通らないと思っているので、大概はうまくいか
ない。相手を変えることほど難しいことはない。要は、自分が変わるしかないのである。
見方を変えれば、筋が通らない、思い通りにならないことが1つ2つあるということはそ
の他のことは案外うまくいっているということの裏返しでもある。何もかもがうまくいって
悩みのない状態に人は誰しもがあこがれるものであるが、そんな楽園みたいな状態は、退屈
で生きる意欲すらわかなくなるであろう。一つ悩みが解決すると、次の悩みが出てくる。い
やその悩みはもともとあった客観的には存在した現実であるが、一つ悩みが解決したから自
分の意識の焦点がそちらに移っただけなのだ。
三 もう一つ大事なことは、時を待つことだろう。
「何ごともなすにも時というのもがある。わるい時がすぎれば、よい時は必ず来る。おし
なべて事を成す人は、必ず時の来るのを待つ。あせらずあわてず静かに時の来るのを待つ。
時を得ぬ人は静かに時の来るのを待つがよい。大自然の恵みを心から信じ、時の来るのを信
じて着々とわが力を蓄えるがよい。着々とわが力を蓄える人には時は必ず来る。時期は必ず
来る。」
松下幸之助氏の言葉であるが、幾多の困難を乗り越えた人ならではの言葉である。
四 この不況と時代の閉塞感は、優しい日本人がたくましく成長するための宿題なのかもし
れない。幕末・維新の混乱期から150年。日本は岐路に立たされている。これをどう切り
開くか、時代に立ち向かう役者は我々である。
今年も大いに悩み、成長しよう。
以 上
(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2010年1月号掲載)