先月、中小企業家同友会の勉強会で、美容室としてユニークな経営を続ける散髪ドームの社長の話を聞く機会があった。
従業員を徹底的に信頼し決して失敗しても怒らない社長である。どうして従業員が失敗したときに怒らないのか質問した。成功するまで努力する、あきらめないのが会社の考え方なので失敗という言葉が社内にはないそうだ。だから、失敗は成功の過程であって、なぜうまくいかなかったかがはっきりすればよいのであって、失敗は次の成功のためのヒントに過ぎないそうである。「失敗は成功のもと」とはよく使う言葉だが、目の前の利益ばかりが気になると、ついつい失敗にくよくよしたり、失敗したスタッフを責めてしまうのが世の常である。企業経営にとって一番大切なのはゴーイングコンサーン。目の前の利益も大事だが、継続的・永続的に会社を維持して社会に貢献することである。その経営理念を実践しているところに経営成功の秘訣があった。
失敗を恐れて、守りに入ると会社も人間も魅力はなくなってしまう。自分の力はどうせここまで、失敗して苦労するのはいやだ、という思いが頭をよぎり、力をセーブしようとすると、時代が求めている課題やその組織が抱えている課題を決して乗り越えることはできない。失敗しそうなことは何も手を出さない人間、失敗したことのない人間と付き合ってもいても楽しくないのはそのためである。
戦略と計画のない暴走はもちろん論外だが、適切な目標と課題を設定し、信念をもって失敗を恐れず、夢に挑戦する組織や人間は魅力があり、周囲の人たちを応援してあげたい、という気持ちにさせる。絶対に失敗をしない人に対しては、誰も手を貸さないし、わざわざ応援しようという気は起こらないのである。
どんな従業員でも必ず役に立つものを持っている。従業員がその力を100%発揮すれば前進しない会社はない。経営者の力量は従業員が100%力を出し切る環境を提供してあげられるかどうかで決まる。多くを学ばされた勉強会だった。
以 上
(弁護士原 和良「となりの弁護士」2008.3)