弁護士のところに来る依頼者の多くは人生の苦難に立たされて、その解決のサポートを求めて相談に来る人々である。倒産、離婚、身内の不慮の死や犯罪行為などはその代表例である。
相談を受ける弁護士は、依頼者の苦難に共鳴・同情しつつも、置かれている状況を冷徹に客観的に分析し、被害を最小限に食い止め苦難から脱出する方策を短い相談時間の中で見つけ出さなければならない。
人生にはいい時もあれば悪い時もある。他人事だから言えることだが、不幸な状態は、あきらめずに努力をしている限りいつかは好転し、自分の苦難を後から回想できる時が必ず来るのである。私は、細木和子でも瀬戸内寂聴でもないが、多くの事件を通じてそれが真理であることを実体験してきた。そして体験上言えることは、順風満帆の人生を送ってきた人よりも、逆境を乗り越え波乱万丈を乗り越えた人のほうが、人間としての味があるし、ビジネスの世界でも驚くような大事を成し遂げているケースが多い。
「名を成すは常に窮地の時、事に敗るるは多く得意の時」という言葉がある。倒産、離婚、愛する人の死など不幸に直面した時にこそ、その人の本当の人間としての価値が試される。
「こんなことを弁護士に相談するのは恥ずかしい」「つまらない人間とみられるのではないか」「倒産して取引先に会わせる顔がない」…このような逡巡が結局自分の決断力を鈍らせて、ますます苦難のよどみに陥ってしまう。完璧な人間などいないのである。助けを求めることは、人の力に甘えることとは違う。あくまでも周囲は、本人が苦難に正面から立ち向かう意思があってこそ、手を差し延べることができるし、差し延べる気になるのである。
経営者は倒産と隣り合わせで生きている。結婚は常に離婚の危機をはらんでいる。生きている以上は、死は避けられない。それを乗り越えようとする人に対して、感銘し最大限のサポートをするのが我々法律家の仕事である。
以 上
(弁護士原 和良「となりの弁護士」2008.2)