「仕事の報酬は仕事」という言葉は、元ソニーの会長であった盛田昭夫氏の言葉です。仕事の報酬は、お金ではありません。
このことを更に分析的に述べているのは、田坂広志氏です(「知的プロフェッショナルへの戦略」 講談社)。田坂氏は、知識社会における知的プロフェッショナルの働き方の戦略として、「目に見えない収穫」を最大化することの重要性を指摘しています。
田坂氏は、目に見えない収穫として「4つのリターン(報酬)」をあげています。
(1)ナレッジ・リターン(知識報酬)
仕事を通じて、人は今まで知らなかった新たな価値ある知識と経験、知恵を得ることができます。
(2)リレーション・リターン(関係報酬)
仕事は、一人でやるものではなく、相手方を含め多くの人とのコミュニケーション、協力を得て達成するものです。そこでは、それぞれのキーパーソンと具体的な接触を通じて他者から学び、他者に自分のスキルと人格を知ってもらう機会を得ることになります。そこで得られた人間関係は、目に見えない大きな報酬ということができるでしょう。
(3)ブランド・リターン(評判報酬)
仕事をうまくやり上げたとき、社会や市場から、あの人の腕は確かだ、あの人に任せれば安心だ、という評価を得ることができます。この評価が次の仕事を生み出す源泉となっていきます。ブランド・リターンはその意味で大きな報酬であり、逆に仕事で信頼を失うとブランドは傷つき大きな損失につながることになります。
(4)グロース・リターン(成長報酬)
仕事は、常に困難がつきものである。その困難を乗り越えて仕事を成し遂げると、自分自身が大きく成長できます。成長した自分は、更により困難な仕事が与えられてもそれを乗り越える自信を持つことができます。成長の報酬は、仕事の意義そのものともいえるでしょう。
この4つのリターン(報酬)こそが、仕事をする上では重要で、マネーリターン(金銭的報酬)は、(1)~(4)の報酬の結果でしかありません。そして、(1)~(4)のリターンなくしては、長期的に金銭的報酬は獲得することはできません。逆に、(1)~(4)の報酬を確実に蓄積していけば、紆余曲折はあったとしても、必ず金銭的報酬にたどり着くことができます。
私たちが、仕事に取り組む時に、常に意識しなければならないのは、その仕事を通じてどれだけ自分の知識やスキルの向上につながるか(つながったか)、その仕事を通じてどれだけ将来の展開につながるありがたい人間的つながりをもてるか(もたてか)、その仕事を通じて自分に対する信頼と評価を獲得できるか(できたか)、その仕事を通じて自分がどれだけ成長できるか(できたか)、ということです。同じ仕事をする際にも、このような自己評価基準をもって取り組むのと、単にお金のために取り組むのとでは、一年後、一〇年後に大きな差が出てきます。
以 上