25-02-27 : となりの弁護士「ビジネスと人権」(弁護士 原 和良)

1 ジャニー喜多川問題、松本人志、中居正広に端を発したフジテレビの不祥事問題…これらに共通するテーマは何か?
  「ビジネスと人権」というのが共通テーマではないかと思う。

2 ネットで「ビジネスと人権」を検索すると、政府・各省庁、上場企業、経営コンサルタント、大手法律事務所のホームページがたくさん表示される。
  ビジネスにも人権配慮が必要だというのが今の世界の趨勢である。
  もともと、「ビジネスと人権」は、国連が提唱したルールがそのルーツである。
  多国籍企業が、発展途上国の児童労働や女性労働の安い賃金で人々を搾取し膨大な利益を上げることに対して、企業は公正な取引を通じて利益を確保すべきだという告発が相次ぎ、これが今では国際標準になりつつある。

3 ナオミ・クラインがグローバル企業の搾取を告発した「No Logo」をはじめ、映画「ザ・トゥルー・コスト~ファストファッション 真の代償」、フェアトレードなどに代表されるように、企業の社会的責任として、人間を搾取することによって利益を得てはならない、ビジネスは人権を侵害してはならない、というスタンダードが今確立しつつある。
  「ビジネスと人権」は、SDGs(持続可能な経済発展のための目標)とは表裏一体の関係にある。
  私が所属し活動する中小企業家同友会全国協議会でも、会員企業に「ビジネスと人権」の原則を具体化していこうという取り組みが始まっているが、大企業も含め日本での受け止めや取り組みは諸外国先進国と比較するとまだまだ一周遅れと言わざるを得ない。

4 経営学の世界的権威であるマイケル・ポーターは、近年 CSV(Creating Shared Value「共通価値の創造」)という企業のあるべき姿を提唱している。CSVとは、企業が社会課題や問題に取り組むことで社会的価値を創造し、その結果、経済的な価値も創造されることを意味する。
  企業が短期的に利益を上げようと思えば、他人を犠牲にして搾取して利益を確保すればよいがそれは究極的には長続きしない。
企業が永続的に反映するためには、他人の幸福に貢献すること、すなわち社会的価値を創造することこそが重要である。

5 一万円札のおじさんである渋沢栄一は、次のような名言を残している。
 「富を成す根源は何かといえば、仁義道徳、正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができぬ。」
  今、企業とその経営者に求められているのは、正しく儲けるという倫理観ではないか。
  冒頭の不祥事はその反面教師である。

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