25-03-28 : となりの弁護士「不確実性の時代に」(弁護士 原 和良)

1 アメリカの法制度を学ぶためにニューヨークとワシントンD.C.に滞在したのは、2007年の夏。当時、日本はアフリカの黒人にルーツを持つバラック・オバマの大統領選キャンペーンが始まっており、街は活気に満ちていた。
  アメリカでは、ホワイトハウスや大手法律事務所、裁判所、刑務所等を視察して回ったが、陪審制の裁判を傍聴し、また刑務所のバスケットボール場で汗を流し自由に電話で家族や友人と連絡を取り合う囚人たちの姿を見て、アメリカの自由や民主主義を市民全体が誇りをもって維持し、一人一人が国家を支えようとするアメリカ社会での懐の深さを改めて感じたものだ。あれから、既に18年の歳月が過ぎた。

2 今アメリカでは、トランプ氏が4年ぶりに大統領に返り咲き、世界に物議を醸しだしている。グリーンランドの買収、メキシコ湾をアメリカ湾に改名、パレスチナのガザ地区のリゾート開発、ウクライナの停戦と引き換えのレアメタル権益の確保、「不法移民」の摘発と流入制限、関税政策など世界はトランプの一挙手一投足に振り回されている状況だ。

3 1776年のアメリカ独立宣言は、以下のように宣言する。「我らは以下の諸事実を自明なものと見なす.すべての人間は平等につくられている.創造主によって,生存,自由そして幸福の追求を含むある侵すべからざる権利を与えられている…」。フランスの人権宣言のお手本となったといわれる、この自由・平等そして民主主義の理念を宣言した独立宣言は、単にアメリカ市民のみに適用される理念ではなく、地球上に住むあらゆる人類に普遍の理念であるからこそ、その後の世界の政治社会制度、文化に大きな影響を与えたはずだ。
  その自由と民主主義の発祥の地で、歴史の歯車を逆展開させるような事態が生まれていることは何とも皮肉なことだ。

4 世界は混とんとしている。翻って、アメリカがどうなろうとも、私たち日本人にとって問われているのは、トランプの言動に右往左往することではなく、自由や民主主義、をしっかり堅持した自立した外交を進めることであろう。
  ブレーズ・パスカルの著名な言葉に「人間は考える葦である」というフレーズがある。
  人間は、弱くて頼りない存在であるが、「考える」という働きがある点において偉大な存在である、という意味だ。
  偉大で尊厳のある人間であり続けるために、考えることを私たちはやめてはならない。

以上

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