25-09-29 : となりの弁護士「アメリカ トランプ政権」(弁護士 原 和良)

1 今年1月に、アメリカに第二期トランプ政権が発足して半年が過ぎた。
  トランプ政権は、「アメリカ第一主義」を掲げ、様々な国内外政策を推進してきたが、果たしてそれが、自由で活気あるアメリカの再興につながっているのか、大いに疑問である。

2 トランプ政権は、自由と民主主義社会の根幹である、言論・報道の自由や学問の自由に対して容赦なき抑圧を続けている。
  自政権に批判的な報道機関に対して名誉棄損等の損害賠償請求訴訟を提訴し、報道機関の統制を強めている。反ユダヤ主義の温床になっているとしてハーバード大学・コロンビア大学などの教育研究機関に対しては、連邦政府の助成金の凍結や留学生の受け入れ拒否など学問の自由を脅かす政策を次々と強行した。果てには、トランプ陣営の対抗勢力の代理人を務めた法律事務所にまで活動の制限をかけている。

3 1791年に制定された合衆国憲法修正第1条は、表現の自由、集会の自由など人権と民主主義の根幹である精神的自由を保障している。それは、日本はもちろんのこと各国の近代憲法にも大きな影響を与えたし、その後の米連邦最高裁判所の表現の自由をめぐる判断は、各国の裁判所の判断にもいわばお手本となっている。

4 目を覆うような人権侵害の政策に対して、注目すべきは、連邦裁判所が次々とその政策の違法性を指摘し、差し止めや無効の判断を示していることだ。
  司法が行政府の暴走に歯止めをかけようとしていることは、唯一の救いであるといえよう。

5 翻って日本はどうだろうか?トランプほどの過激な反動政策が日々打ち出されているわけではないが、国内の人権保障状況は確実に後退しているように感じられる。それは、直接的な強烈な人権抑圧政策ではなく、いわゆる日本人特有の「忖度」によって、真綿で首を締めるかのように息苦しくなっているように思えてならない。
  頼りの綱である最高裁をはじめ司法は、そのような中で権力の独立を維持し、憲法の番人として人権を守る役割を果たしているのだろうか?どうも、司法自らが行政に「忖度」し、その政策を後追いし結局お墨付きを与えているに過ぎないと思う判断が目につく。

6 アメリカでは連邦裁下級審がトランプ関税について違法の判決を下している。連邦最高裁は、今年11月5日に、口頭弁論期日を開くという。
  トランプ関税が、立法府の権限を侵害し大統領としての権限を逸脱した政策であるかどうかについて、今後判断が下される。
  表現の自由に対する侵害は、決してアメリカ国民を幸福にすることはないであろう。深刻な分断の溝が更に深まるだけであろう。
  アメリカ民主主義の復活を期待してやまない。

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