04-03-01 : ひとこと言わせて頂けば「金銭感覚」(弁護士原 和良) 

発光ダイオードを発明した中村教授に対して、東京地裁は会社に特許取得の対価として200億円を支払うよう命じる判決を下した。サラリーマンや技術者もがんばれば、報いられると、マスコミ各社はこれを歓迎する報道をし、大手企業はこんなことが認められれば会社は倒産してしまうと批判した。日本の雇用システムが大きく変わろうとしていることは確かだ。

 しかし、われわれ庶民にとっては、あまりに金額が大きすぎて実感がわかない。大きすぎると実感がわかず我々の感覚は麻痺してしまう。年収500万円のサラリーマンにとって、200億円の報酬は、4000年分の年収となる。もちろん中村教授の所得税・住民税等の税負担も大変だろうが、それにしても桁が違う。
金銭感覚が麻痺するといえば、国と地方の累積赤字(借金)は、約700兆円と言われている。国民一人あたり、550万円の借金を負担していることになる。しかし、これもあまりに金額が大きすぎて誰も真剣に解決しようという気すらおこらない。人間は、目の前の利害には敏感に反応するが、問題が複雑で利害が見えにくくなると、とたんに追求が衰えてしまう。
先日、事業に失敗した人の負債整理の相談を受けた。本人は、脳梗塞を患って現在生活保護を受給している。毎月自由になるお金は2万円もない。個人の負債総額は約28億円。これだけ負債があると、どうやってかえすかということをまともに考える気にもならない。
資産も負債も、桁が違いすぎると日常生活の感覚は全く意味をなさない。給料が少し上がった下がった、小遣いが千円増えた減ったと一喜一憂している金銭感覚の方がまともだし、案外幸せなのかも知れない。

(弁護士原 和良「ひとこと言わせて頂けば」2004.3掲載)

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