04-04-01 : ひとこと言わせて頂けば「のどもと過ぎれば…」(弁護士原 和良) 

「のどもと過ぎれば」というのは、問題が発生した時は反省しきりだったのに、時がたってしまうと何も教訓にしないでまた同じようなことをする場合に使われる言葉だ。

 われわれ弁護士が扱っている業務は、この悪い人間の性格を逆手に取らなければやっていけないところがある。相談者は、理不尽な「権利侵害」に烈火のごとく怒っていたり、われこそは世界で一番の不幸を背負った人間であることを一生懸命に訴えてくる。
よくよく話を聞くと、相談者にも落ち度や責任の一端があることが通常であるし、また不幸だと思う精神状態自体が心の病気だったりする。最近目立つのは、心の病気をもった相談者で、弁護士はカウンセリングの能力も磨かなければ事件の解決ができない。
そんな中でよく思うのは、人の悲しみや怒りは実はそんなに長続きしないということだ。あるいは、何らかのきっかけで、相談のイシュー(案件)から他のことに関心が移ってしまい、「お任せします」となることも多い。それは、日本の訴訟が時間が掛かるという弊害を悪用しているふしもあるが、何年も訴訟をやっているうちに、「何のために訴訟をやっているのだろう」という気分になり、訴訟を終わらせること(その勝ち負けはともかく)自身が要求になっていることがよくあるのである。弁護士なりたてのころには、この事件はどうなっていくのだろうとあたふたしたこともあったが、振り返って考えると、どの事件も落ち着くところでちゃんと解決しているから不思議なものだ。
人生は目の前に立ちはだかる一番目立つ課題が、いつまでも続く大きな困難だと感じがちであるが、案外冷静になって自分を客観視すると失敗したってどうってことないじゃないということの方が多いのである。

(弁護士原 和良「ひとこと言わせて頂けば」2004.4掲載)

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