04-08-01 : ひとこと言わせて頂けば「「自由競争」社会とこころの病気」(弁護士原 和良) 

最近、うつ病その他の心の病気にからむ事件がやたらと増えてきた。

 心の病気になった原因は様々だ。ヘルニアからうつ病になり焼身自殺したケース。薬の副作用で幻覚症状となり飛び降り自殺したケースでは医師の薬の処方ミスが問題となっている。深夜自宅に強盗が侵入し死の恐怖を体験してPTSD(心的外傷後ストレス症候群)になったケース。交通事故で夫が高次脳機能脳障害となり介護にあたる妻と息子がうつ病となったケース。不当解雇で、裁判の負担からうつ病になったサラリーマン等々。挙げればきりがない。
このような心の病気のからむ事件の弁護士のストレスも大変なものだ。適度に気分転換しないと自分がつぶれてしまうのがこの仕事のつらいところである。
ところで、心の病気は人の経済活動を一時休止させる。働いていた仕事を休職したり、場合によっては退職せざるを得なくなる。うつは心の風邪と呼ばれるように現代社会にとって誰にでも起こりうる病気である。今現在、どんなに自分が「勝ち組」で高収入を得ていても、そんな自分が明日は無収入のどん底に突き落とされてしまう可能性がある。私自身も例外ではない。そのような不安感が、結局日本社会の不安感となっている。心の風邪にかかっただけで、脱落させられる社会は豊かな社会ではない。昨年度の自殺者数は、3万2千人と過去最高となったが、その多くが経済苦や心の病気がからんでいるようだ。国にとっても大きな損失である。
アメリカ型の自由競争、能力主義が叫ばれているが、実は「勝ち組」と呼ばれているのは、一時的な「仮の姿」に過ぎないのではなかろうか。一生勝ち続ける人などむしろよっぽど運がいいだけで、能力が高いのではないのである。
疲れたら休める、病気になっても安心して暮らせる、住宅ローンの重圧なく働ける、このような社会こそが、本当に人間の能力を発揮できる社会のはずである。

(弁護士原 和良「ひとこと言わせて頂けば」2004.8掲載)

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