04-10-01 : ひとこと言わせて頂けば「1時間6円の法律相談」(弁護士原 和良)

敬老の日の9月20日、私は溜まった起案(裁判所に提出する裁判の書面)を仕上げるために休日出勤をしていた。そこへ顧問労組の役員T氏から電話。至急相談したい案件があるという。

 T氏が連れてきたのは、中堅スーパーのレジで働くパートのおばさんCさん。一人暮らしのCさんは、約8万円のパート収入でつめに火をともす生活をしているという。
そのCさんが、出来心から職場店舗内に落ちていた6円をポケットに入れてしまった。おそらくお客さんが落としたお金だろう。その場を上司に目撃され、泥棒扱いされ退職届を書かされた。Cさんの言い分は、「落ちてるお金は会社がすべて雑収入扱いで警察にも届け出ていない。たった6円で、何故私だけが泥棒扱いされた上、退職まで強要されなければならないのか。『監禁』され死ぬほど怖かった。解雇を撤回させて慰謝料を請求したい」。
日本の裁判所は会社に対する誠実義務を重視している。金額の多寡ではない。かつてバスの車掌が売上金を数十円ごまかして解雇された事件で、裁判所は解雇には合理的理由があり社会的に相当と判断した。見つかった1回がたまたま少額でも、このような不誠実な態度は必ず大きな損失につながるという考え方だ。
私は、Cさんの受けた屈辱とくやしさに共感しながらも、判例を説明し、退職届けは無効でも再度解雇されると解雇は有効になることを話してあげた。同時に、6円でも他人のお金を取ることがいかに間違った考えかについて説明し、次の職を探すことに全力を尽くすようアドバイスして納得してもらった。働くことの意味を少し理解してもらえたようだ。
相談終了後、Cさんから、「今日の相談料は?」と聞かれ、「6円です」と答えた。Cさんがおもむろに財布から6円を取り出そうとしたので、「冗談ですよ」と答え、帰ってもらった。
こんな相談があるから弁護士は、お金にならなくてもおもしろいのである。

(弁護士原 和良「ひとこと言わせて頂けば」2004.10掲載)

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