友人である大竹啓裕社長の本「ストックビジネスの教科書」(株式会社ポプラ社)が、ビジネス書として爆発的に売れている。
大竹氏の経歴は実に面白い。株式会社セコムでストックビジネスの基礎を徹底的に鍛えられ、その後全国250店舗のラーメンFCチェーン立ち上げに役員として関与し、現在は、貸会議室・シェアオフィスの事業運営を東京中心に展開されている。また、非営利法人一般社団法人ハラル・ジャパン協会の副理事長としてハラル関連ビジネスとムスリム文化の理解促進に貢献されている。
起業し独立したみなさんならご存知の通り、経営者は日々恐怖とのたたかいである。サラリーマン時代には、毎月決まった日に給料が口座に振り込まれていたが、起業すると毎月決まった経費は出ていくかわりに、決まった売り上げは入ってこない。誰も自分に給料は払ってくれないのである。毎月毎月、今月は越せるだろうかという不安に駆られる。貯金と銀行の融資金は瞬く間に目減りしていく。
大竹氏は、経営者の恐怖を軽減し経営を安定化させるカギとして、フロービジネス(短期的一時的利益につながるビジネス)にとどまることなく、ストックビジネス(長期的永続的利益につながるビジネス)とストック思考の重要性を説いている。時間をかけながら、「継続的に利益をもたらす仕組み・ノウハウ」=「ストック」を意識したビジネスの理論と実践をこの本で紹介している。
なお、本書では、税理士はストックビジネスになじみやすく、弁護士はフロービジネスになじみやすい、と著書では書かれている。確かに、弁護士は、継続的な顧問料収入の占める割合が相対的に小さく、突発的な事件により収入が乱高下するフローな仕事であり、フローの部分は多い。しかし、大竹氏の説くストック思考は我々弁護士にとっても大変参考になるビジネスモデル、教訓を教えてくれている。事件依頼は、もちろんフローな部分があるが、フローな部分を確実に相談・受任につなげるには、日頃の潜在顧客ストックをどれだけ意識して関係性を維持拡大するかが成否のカギを握っている。
長期的永続的利益を獲得するストックビジネスには、その過程においてたくさんのステークホルダーが登場する。それは、共同事業者であったり取引先であったり、社員であったりする。このステークホルダーとの良好な関係性の構築すなわちストックに関与する人々とのWIN=WINの関係の維持がビジネス成功のもう一つのカギになるのではないか、と学ばせてもらった。ご一読をお薦めするビジネス書である。
以 上
(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2015年11月号掲載)