15-09-30 : となりの弁護士「難民問題に直面するEU」(弁護士原 和良)

1 ヨーロッパは、シリア「内戦」等中東地域の政治的混乱の長期化の中で、数十万人の難民が、流入しておりこれが社会問題になっています。トルコの海岸に、シリア難民のアイラン・クルディくん(享年3歳)の遺体が漂着した一枚の写真(http://www.todayszaman.com/op-ed_who-killed-aylan-kurdi_398438.html)は、世界に衝撃を与え(日本のマスコミでは公開されていません)、これが難民受け入れに消極的であった英国の態度を変えさせたと言われています。

とりわけ、人道的な見地から難民受け入れに積極的な態度を表明しているのが独です。他国の市民が、恐怖、欠乏からの自由を求め、尊厳のある人間的生活を求めているときに、それぞれの近隣諸国がどのような態度をとるか、私たち日本人にも考えさせられる問題です。

2 日本では、集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法案が国会で可決成立しました。しかし、日本の近隣で国家が滅亡の危機に瀕し、あるいは内乱が起きたとき、隣国として大量に発生する難民をどのように保護するか、という議論は全くなされていません。法務省の統計によると、昨年の日本による難民受け入れは、1年間でわずか11名にすぎませ(http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri03_00103.html)。これに対して独が受け入れを予定している難民は、数万人規模(EUでは10万人以上)と言われています。これこそ豊かな国の指標ではないでしょうか。

3 安保法制の議論は、世界でどう見られているのか。あまり日本のマスメディアでは報道されません。集団的自衛権や軍事的防衛の議論が世界の趨勢かというと決してそうではありません。国連では、2001年から、軍事による安全保障という考え方から、人間の安全保障という考え方に大きく安全保障の議論が変わりました。安全保障の目的は、国家の存立ではなく、そこに生きる一人一人の人間の恐怖と欠乏からの自由、尊厳をもった人間らしい生活の保障にある、という新しい安全保障の考え方です。この真の意味でのグローバルスタンダードと大きく外れているのがアメリカであり、そのアメリカと集団的自衛権で暴れようというのが日本です。俳優の渡辺謙さんは、次の言葉が今共感を広げています。「一人も兵士が戦死しないで70年を過ごしてきたこの国。どんな経緯で出来た憲法であれ僕は世界に誇れると思う、戦争はしないんだと!複雑で利害が異なる隣国とも、ポケットに忍ばせた拳や石ころよりも最大の抑止力は友人であることだと思う。その為に僕は世界に友人を増やしたい。絵空事と笑われても。」

以 上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2015年9月号掲載)

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