14-10-31 : となりの弁護士「人を大切にする経営」(弁護士原 和良)

1  バブル経済崩壊後、長期不況にあえぐ日本。人口ボナースはなくなり少子高齢化で国内市場は、今後も縮小傾向。ちまたでは、ROE(自己資本利益率:どれだけ短期的に利益を上げられるかという企業業績を図る指標)重視のアメリガ型経営がもてはやされる。人員リストラ、少数精鋭の企業経営が推奨されるなかで、社員(従業員)軽視、地域経済無視した利益至上主義、株主優先経営が、さまざまな弊害をもたらしている。正規雇用から非正規雇用への転換、過労死、格差の拡大、ブラック企業問題などあげればキリがない。

かねてからこうした企業のあり方に疑問を私も抱いていた中で、公然と反ROEを掲げ、人を大切にする経営を提唱し、企業のあり方に体するオータナティブを提唱する組織が立ち上がった。

2 坂本光司法政大学大学院教授が中心になって結成した「人を大切にする経営学会」である(http://www.htk-gakkai.org/)。坂本教授は、ベストセラーとなった「日本で一番大切にしたい会社」の著者で、全国約7500社の中小企業を訪問、研究し、本当に社会に必要な企業とはなにかを長年研究されている。その研究成果は、「人を大切にする会社100の指標」(仮題)というタイトルの本として近々発表される予定だ。

3  中小企業家同友会の企画で数年前にお会いして以来、数回に及び坂本先生のユーモアあふれるお話を聞き、著書で紹介されている中小企業経営者のお話を聞いたり、会社を訪問したりする機会も得ることができた。

自分は、経営者としてどこまで実践できているのだろう、といつも反省させられ、励まされ、勇気を与えられてきた。

坂本教授は、会社には、「五人に対する使命と責任がある」と提唱する。第一は社員と家族を幸せにする責任、第二は外注先・下請企業の社員を幸せにする責任、第三は顧客を幸せにする責任、第四に地域社会を幸せにし、活性化させる責任、そして第五は株主や出資者を幸せにする責任であるが、これは第一から第四の幸せを追求した結果として自然に生まれる幸せであり、これが第一ではないという。

4  「日本で一番大切にしたい会社」の本の冒頭に出てくるダストレスチョークを製造する川崎市の日本理化学工業株式会社は、約50年前に重度の障害者を雇用したことをきっかけに、次々と障害者の雇用を促進し、今では社員の7割が障害者だという。幸福とは、①人に愛されること、②人にほめらること、③人の役に立つこと、④人に必要とされること。そして、②③④は、働くことによってしか得られない、という大山社長(当時)が聞いたお坊さんの話が紹介されている。障害者の幸せつくりのために働く場を提供している会社は、障害者とその家族、地域にとってかけがえのないなくてはならない会社として反響を呼び、結果として利益を上げ続けている。

5  東京中小企業家同友会の仲間たちが、12月5日、豊島区池袋でその坂本教授をお呼びしての講演会を企画し、それに引き続く連続の勉強会を行う

http://www.tokyo.doyu.jp/tokyo-doyu/flack/12069.pdf)。

経営者は必見である。

以 上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2014年10月号掲載)

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