12-11-30 : となりの弁護士「系列化、下請化からの脱却」(弁護士原 和良)

1 日本型資本主義は、大企業の下に、中小企業が系列化、下請化され、大企業発展の利益の「おこぼれ」を中小企業がいただくという構図の中で経済発展を遂げてきた。政府は、独占資本を擁護し、その利益を最大化する政策を推進する役割を長らく続けてきた。東西冷戦が終わり、インターネットの普及によりグローバル化が急速に進行し、また中国はじめ新興国がめざましい経済成長を遂げた現在、もはやこの構図は一昔前のものになったといえよう。
大企業が元気になれば、下々の中小企業と国民は、その影響を受けてよくなるといういわゆる「川上川下論」は今や通用しない。
2 しかし、今のTPP(環太平洋協定)をめぐる論調を見ていると、やはり大企業救済がはじめにありきで、TPPに乗り遅れると、大企業は壊滅的打撃を受けて、日本経済はだめになるという、通用しない「妖怪」に今も固執しているだけではないか、という感が否めない。
わかっていながら、このような論調が強い影響力を持つのは、そのことによって利益を得る勢力が存在するからであろう。理屈というのは常に利害が絡むのであり誰が利益を得て誰が犠牲になるか、冷静に見る必要がある。
3 夏に、バンコクに行った際、バンコクの弁護士や日系企業経営者らとTPP問題や日本政府の対応について、ざっくばらんな意見交換をする機会があった。アメリカの利益のためのTPP、経済自由化は、日本にも、ASEAN諸国にも全くメリットがない、ということで意気投合した。これからは、ASEANの時代であり、各国がそれぞれの国の実情と発展段階を尊重しながら相互互恵の経済圏をつくってこそ未来があるとの共通認識を持った。ASEAN諸国は、2015年に域内貿易の関税撤廃を合意している。しかし、そのための法整備はまったく進んでいない。日本の法律家がこのような分野で活躍する余地は無限大にあると感じた。
4 そんな中、タイのインラック首相が、11月18日にカンボジアで開催されるASEAN首脳会議に参加するオバマ大統領との会談の席で、TPP協議参加の意向を表明するというニュースを聞き耳を疑った。他国のことはとやかく言わないが、少なくとも、日本の将来を考えた場合、国自身が、系列化・下請化の構造化から脱却しない限り、この国は常に他国の意向に左右されつづける主体性のない国のままであることは確かだ。

以 上
(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2012年11月号掲載)

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