1 正月明けの連休を利用して、4泊5日でタイのバンコクに出かけた。日本にいると、どうしても、日常業務に追われ思考が硬直化してしまう。今回の旅は、頭の洗濯にはいい機会となった。微笑みの国タイの首都バンコクは、構造的な不況と社会の閉塞状況に苦悩する日本と比べ明るく若々しい印象を受けた。97年の通貨危機をくぐり抜けたくましく経済成長を続けるタイは、発展に伴う様々な社会問題を内包しながらも、昨日よりも今日、今日よりも明日はもっとよい社会になるという、成長のコンセンサスがこの国の国民のエネルギーを支えているようである。
1月9日には、夕方、国際人権法の分野で著名な某大学教授との夕食会が予定されていたが、寺院めぐりの観光から教授宅に向かう途中、タクシン派の赤シャツ集会に遭遇してしまい、道路は閉鎖。トゥクトゥク(バイクの三輪車タクシー)は、路上で立ち往生するという体験をした。危うく遅刻するところだったが、これもいい思い出となった。
もはや、東南アジア=発展途上国という日本人のイメージは古くなった。1000万人都市バンコクはある意味では東京以上に都会である。物、人、情報が国境を越えて行き来し、ボーダーレスの時代に入って、20年以上が経っているが、日本は、過去の栄光とプライドにしがみつき、そのスピードに取り残されてしまっていることを実感した。
2 人の人生にアップダウンがあるように、国や民族の歴史にもアップダウンがある。パックスブリテンもパックスアメリカーナもジャパンアズナンバーワンも今やすべて歴史の一こまに過ぎない。
アップの時に奢らず、ダウンの時に悪びれずやけにならず必要な努力をしてじっと時期を待つことが必要である。日本は、その意味ではダウンに気遅れすることなく、明日の目標を立てて準備をする時期なのであろう。
いま日本がやるべきことは何なのか、日本企業と日本人がやるべきことは何なのか。心も身体も、島国にこもらず思い切って外の世界に出て、新しいエネルギーを吸収することではないか。とりわけ日本のリーダーにはその気概が必要だが、残念ながら今の政治リーダーにはその覚悟を感じない。また、国のリーダーに対して目先の恩恵だけを求め、自らを変革しようとしない日本人にも責任があるだろう。
不況、雇用、教育、社会保障、など日本の抱える構造的な危機を克服するには、危機を危機として直視しながら、ボーダーレス時代にふさわしい解決策を模索する必要があるだろう。
以 上
(弁護士原 和良「となりの弁護士」「オフィス・サポートNEWS」 2011年1月号掲載)