10-10-25 : となりの弁護士「検察庁という役所」(弁護士 原 和良)

1 犯罪を処罰する検察庁が今揺れている。大阪地検特捜部でのフロッピーディスク書き換え事件で現職の主任検事が逮捕起訴され、その上司であった当時の特捜部長、副部長が犯罪捜査の対象となっている。

これまで、検察は多少乱暴なところはあっても、社会正義のために戦う組織、特に特捜は「巨悪を眠らせない」正義の味方として国民の信頼があった。ドラマ『ヒーロー』が人気があったのも、このような社会的信頼を背景にしていた。

その検察で、証拠の偽造、そして偽造の組織的隠ぺいを行っていたという前代未聞のスキャンダルが起きたのだから、組織にとって激震が走るのもやむを得ない。

2 何故、こんな不祥事が起きたのだろうか?

検察への期待とプレッシャー、それについていけない現場の捜査力(人間力)の低下と功名をあげたいという焦りである。

弁護士として日々検察官と接触している中で、最近とみに感じていたのは、検察官の能力の低下である(これは、弁護士にも言えることかもしれない)。少なくとも、99.9%が有罪とされる日本の刑事裁判の中で、その大半は自白調書で証拠ががちがちに固められ、いったん自白するとそれを覆すのは至難のわざ、裁判官も自白している以上、法廷でどんな弁解をしてもだめという態度を取ってきたツケである。

自白ではなく、客観的な証拠から有罪を立証するという原則論がないがしろにされてきたツケであろう。

3 贈収賄や政治献金がらみの事件は、客観的証拠が薄く、捜査は関係者の供述証拠に頼らざるを得ない。検察官は、有利な供述を収集しようとやっきになる。そして有利な供述を引き出した検察官は有能な検察官と組織内で評価されるため、勢い描いたストーリーに沿った無理な供述の押しつけに力を注ぐことになる。

陰に陽に、あめとむちをかざしながら被疑者や参考人は、精神的に追い込まれストーリーに沿った供述調書がいつの間にか出来上がる。

調書があるのだから、間違いない、と考えるのは間違いなのである。

4 社会正義のために献身的に仕事に取り組んでいる検察官がたくさんいることも事実である。しかし、捜査のあり方は、今一度見直される時期に来ているのは確かであろう。世の中が混とんとして、新しく変わろうとする時代にはいろいろな想定外の事件が起きるものだ。

以 上

 (弁護士原 和良「となりの弁護士」」「オフィス・サポートNEWS」 2010年10月号掲載)

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