08-10-01 : となりの弁護士「交渉術と味方」(弁護士原 和良)

交渉術が、流行っている。この間3回ほど、交渉術をテーマにした講演をした。
人間は良くも悪くも感情を持った動物である。いやな人間が交渉相手、クレーマーでなくともシビアな交渉を苦手なタイプとしなければならなくなると、ついつい気が引けて、後回しにしようという心理が働く。

交渉において、人は単なる登場人物に過ぎない。交渉の目的は、相手方と心を通わすこと、仲良くなることではなくで、対立している利害を互いの利益になるように譲歩、調整することである。人ではなく問題に着目せよ、というのが交渉学・交渉術の第一の鉄則とされる。

そういう風に割り切れば、少しは気が楽になるものである。感情に流されるのではなく、相手の言動から相手が解決すべき問題に対してどのような見方、評価をしているかを推論する余裕が出てくる。相手がまくし立てるクレームは、こちらが有利に物事を解決するための貴重な情報源である。そしてどこかで相手にも、感情を発散するのでなく、問題をよりよく解決することが目的であると、冷静に考える余裕を与えてやれば、感情を乗り越えて協力しなければならないという共通認識が生まれ、いやな交渉が解決に向けた楽しい交渉になることもしばしばある。

交渉は、「敵」とやるばかりではない。他人と共同生活、社会生活をする以上、起きて寝るまで無意識に人と接し、交渉を繰り返しているのである。妻との会話も交渉だし、子どもとのふれあいも交渉である。妻だから、子どもだからと思って「自分のことはわかっているはずだ。自分の言うことを聞いて当然」と思うことは、家庭崩壊のはじまりである。

これは、ビジネスにも当てはまる。経営者や管理職であれば部下をどうやる気にさせ、チームワークを発揮させてやりがいを感じながら会社のために働いてくれるか、まさに交渉術が試されているのである。敵は味方にあり、味方を本当の味方につけられれば、実は敵無しなのである。

どいつもこいつも使えない社員ばかり、人材不足だという愚痴を経営者から聞くことがある。しかし、経営(マネジメント)とは、人を通じて自分のやりたいこと、夢を実現する作業である。自分の思い通りにいかないのは、それは各社員にかけがえのない個性があるということ。使えない、育てられない、というのは、マネジメントの努力が足りないケースの方がどうも多いようである。

以 上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」2008.10掲載)

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