1 中小企業の経営者の相談で最近とみに増えているのは、会社の事業承継に関する相談だ。戦後裸一貫で働き会社を大きくしてきたが、ふと気付くと自分の会社を引き継いでくれる後継者がなかなかいない。息子(娘)は、経営者タイプではない、会社に興味がなくてミュージシャンになる夢を追いかけている、身内でない幹部社員に事業を任せるか…。これは、中小企業だけではなく弁護士業界にも共通する悩みのようである。
2 国会では、この5月「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が成立し、経営者の遺産相続をめぐって事業の承継に混乱を生じないよう、遺留分(民法では遺言で一相続人に相続をさせる遺言を残しても本来の相続分の2分の1の相続分は遺留分として保障されている)に関する特例規定や金融支援に関する特別措置が創設された(平成20年10月施行)。
中小企業における事業承継を巡るM&A(企業の合併再編)は、これから日本社会の重要な法律問題になりつつあることは間違いない。
3 ところで、政治の世界を見渡すと政治の世界こそ、後継者不足、日本国家の事業承継をめぐって深刻な人材不足が生じているように思えてならない。国会議員は「選民」であるはずなのだが、「選民」がどうも頼りない。元をただせば「選民」を選んだ選挙民の責任となるのだが、本当に私利私欲を捨てて国会・社会のために働こうという志のある政治家は、選挙に落選するか、政治家になっても永田町の変わり者として冷や飯を食わされているようだ。党派、主義・主張を問わず、本当に人間的に魅力があって民に対する分け隔てがない政治家が多数を占めるようになればこの国はもっと住みやすい国になるのではないかと思うのは私だけではあるまい。
どこもここも人材不足であるが、まずは一人ひとり、自分自身が、社会に精一杯役立つ人材になっているか、自らを問うことから始めるしかないのであろう。
以 上
(弁護士原 和良「となりの弁護士」2008.6掲載)