5月上旬、ビルマ法律家連盟の事務局長アウンスー弁護士が来日し、政府や国会議員、人権団体を訪問した。9日には、わが事務所に見え、ビルマの人権状況や民主化の現状について懇談した。
サイクロン禍で大被害を受けたミャンマー(ビルマ)は、国連の復興支援を事実上拒否し、5月10日に予定されていた憲法制定のための国民投票を強行した。ビルマは、1989年の総選挙によって、アウンサウンスーチー女史率いるNLD(National League For Democracy=国民民主主義連盟)が大勝利したが、軍は選挙結果を受け入れず、現在も軍政が続いている。昨年秋には、物価高騰に抗議する平和的な示威行動が軍事弾圧された。ビルマ民衆がもっとも尊敬する僧侶たちが暴行を受け、日本人カメラマンの長井氏が射殺された。
今回の国民投票は、民主化のための憲法制定(2010年制定予定)のための制度を定める国民投票だと言われているが、問題が多く、およそ民主主義とはかけ離れた制度だ。どんな憲法をつくるかについて、公式には何も示されていない。報道によると議席の4分の1は軍の推薦を受けた議員が議会を占めるというもので、最初から軍による議会の支配が前提とされている。ビルマには、300を超える少数民族が存在し言語は様々だが、不完全ながらも公開されている憲法の内容について、ビルマ語が理解できない多数の少数民族にとっては全く伝わっていない。
アウンスー氏との交流は、大変衝撃的で感慨深いものとなった。もともと役人になりたかったが、政府高官とコネクションがなかったために、弁護士となる。80年代に民主化運動に参加したために、政治犯として2年間の刑務所生活を送る。出所後も弾圧は続き、国外に逃れてヨーロッパで難民認定を受け、現在はビルマ隣接国であるタイで民主化運動を続けている。ビルマにとって必要なのは、法の支配と法の下の平等である、とアウンスー氏は語る。汚職や腐敗、虐殺やレイプが平然となされても支配者は何も処罰されない。あまりに無法が日常化すると、人民は抵抗するどころか、それが自分たちの運命と受け入れてしまう。それを違うといい続けるのは大変なことだ。投獄されても、国外に追放されても、正義を貫き続けるアウンスー氏の人生は壮絶なたたかいの連続である。
日本人として法律家として、果たしてどう生きるのか、日本はこれでいいのか、否応なく自分自身の生き方を考えされられる出会いであった。
以 上
(弁護士原 和良「となりの弁護士」2008.5)