08-01-01 : となりの弁護士「How much are you?(命の値段)」(弁護士原 和良)

1 仕事がら人の死を扱うことが多いが、いつも考えさせられるのが交通事故の損害賠償請求事件である。老衰や病気と違い、交通事故による不幸は突然降って湧いてくる。
任意保険で無制限の保証がされるといっても損害はいくらなのかは、簡単なようで簡単ではない。保険会社は、49日が過ぎると示談交渉のために遺族を訪れる。遺族としては身内が亡くなったという実感すらない中で賠償の話をされても話を聞く気にもなれない。ちょっとした保険会社の担当者や加害者の何気ない言動がトラブルの発端となり交渉が暗礁に乗り上げてしまうこともしばしばだ。

2 保険会社も裁判所も賠償額がアンバランスにならないよう、一定の査定基準を設定している。慰謝料とは遺族の受けた精神的な目に見えない損害である。精神的なダメージは本来属人的で人それぞれに違うのであるが、この慰謝料も基準化されている。不合理なような気もするが、悲観的な性格の人が慰謝料を多くもらえて楽観的で前向きな人が慰謝料が少ないというものおかしな話で、基準化はある程度合理性をもっている。合理性と非合理性をどこかで折り合いをつけて解決しなければならないのが交通事故である。

3 高収入の人が死ぬと逸失利益の賠償額(稼げなくなった損害)は大きく、ニートの場合は死んでも賠償額はわずかである。男性のほうが女性よりも賠償額は大きい。今までは、中国人が日本で死んだら日本人が死んだ場合よりも低くかった。経済格差を反映したものであったが昨今の中国の経済成長を考えるとそのうち逆転する日はそう遠くないかもしれない。
もともと値段の付けようのない人の命に値段をつけようというのが交通事故の賠償論であり、無理を承知で、しかし無理でもつけないわけにはいかないから値段をつけているのである。

以 上

(弁護士原 和良「となりの弁護士」2008.1掲載)

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