6月末から7月始めにかけてモンゴル国の首都、ウランバートルを仕事で訪れた。大相撲で横綱を独占する相撲の強い国だが、ゲルで移動生活をする遊牧民の国というイメージ以外には意外と日本人にはなじみのない国だ。飛行機で約5時間。機内で乱気流のためスーツにコーヒーが飛び散る。タクシーの助手席でシートベルトを締めたら白いワイシャツが真っ黒になった。オシャレは似合わない国だとわかった。
面積は日本の5倍、人口はわずか275万人。そのうち100万人あまりが首都ウランバートルに住む。アジアの隣国にもかかわらず何故日本に縁遠い国かというと、人口が人口だけに、経済市場として日本企業には魅力がいまひとつなのである。1人当たりGDPも年間1800ドルと日本の17分の1(購買力平価)で購買力がない(ウランバートル市民の平均月収は150ドルから200ドルである)。
この国は、ソ連崩壊後1992年に民主化の道を選択した。当時5歳だった子どもが今年20歳の大人になったばかり。民主主義の歴史はまだ浅い。滞在中に、政府高官や財界の要人、日本大使などとも交流の機会を持つことができたが、日本の小さな県の規模の経済力、人口の国だから、1週間もいれば大体その国の状況が見渡せる。
この国でも、急激なグローバリズムの浸透、経済資本主義化の中で経済格差が深刻な問題となっていた。テレビ、インターネットを通じて国民は先進国の『豊かな生活』情報に否応なしに触れざるを得ない。昨日まで草原を駆け回り情報が伝わるのに1週間も2週間もかかっていた遊牧民が、今日では携帯電話で話をしている。
羊や豚を処分してウランバートルに移住し定住生活を始めた多くの遊牧民に職はない。ウランバートルの失業率は60%を超える。経済格差の中で、学校に通えない子ども、定まった住居がないストリートチルドレン、マンホールチルドレンが激増し、治安も悪化している。医療や教育費が無償であった社会主義の時代には考えられなかった現象だ。
物質的な豊かさだけが本当に人間の幸せなのか?、グローバリズムに無縁な世界で満天の星を見ながら季節ごとに家畜のえさを求めて悠々自適に遊牧生活を送る生活は不幸なのか?、民族の固有の言語が日々消滅しているという。100を越える民族が一つの国で暮らすモンゴル国で考えさせられた。
以 上
(弁護士原 和良「となりの弁護士」2007.7掲載)