1 最近「お坊さんの不当解雇」というめずらしい事件を提訴した。ある有名な教団の小さなお寺での出来事である。住職は、周囲の監視の目が行き届かないことをいいことにやりたい放題。集めたお布施は帳簿につけず、毎晩銀座のクラブで飲み明け暮れている。一晩で何十万も使って豪遊する日もあるという。ここ一年ほど、雇った僧侶に檀家へのお勤めも任せ、仕事らしい仕事すらしていない。
2 ついに、檀家の総代(代表たち)も檀家たちもおかしさに気がつき、何とかやめさせようと署名運動を始めたが、宗務の規則では住職に対する解任権が規定されておらず、住職を強制的に解任できないでいた。署名運動に協力した僧侶は、あれこれと不当な理由を並べられ、解雇された。常々、坊主と牧師、弁護士は似たような「商売」だと思っていたが、あらためてその思いを強くした。
3 弁護士も法を説く。憲法とその下で制定された法律が経典だ。僧侶や牧師も法を説く。有名な瀬戸内寂聴住職などの話を聞いたり著書をひも解くと、私が法律相談で話している内容とほとんど中身は変わらない。それぞれの宗教が、それなりに信者の心を捉えているのは、その経典の中に普遍の原理が含まれており、一定の道理ある教えがあるからであろう。そういう意味では、宗教の創始者は優れた人格と考えを持っていたのだろう。しかし、今日の日本では、お盆とお彼岸にお経をあげてもらうくらいで、伝統仏教は魅力を失い、「葬式仏教」と揶揄されている。
4 弁護士も宗教者も、自分の私利私欲に染まると堕落する。他人の不幸による心の傷を治すために法を説き、お布施をもらって生かされているのだから、身分相応に生きないと信者は離れていくのである。弁護士も、食えなければ困るが、儲けることしか考えなくなると堕落する。坊主よ初心に返れ!「ボウズ・ビ・アンビシャス」だというのだそうだ(「がんばれ仏教!」(NHKブックス)上田紀行著)。「同業者」からみて、冒頭の住職は更迭されなければならないと思い、いま一生懸命とりくんでいる。
以 上
(弁護士原 和良「ひとこと言わせて頂けば」2005.3掲載)