14-07-01 : 法律コラム第3回「解釈で改憲?」(弁護士 森 直美)

1.7月1日、私は1歳3か月の息子を抱っこして授乳しながら自宅のテレビで集団的自衛権行使容認の閣議決定のニュースを観ました。安部首相は、日本が戦争をするようなことは決してありませんと演説していましたが、その言葉とは反比例して「いつか息子を戦争に行かせる日が来てしまうかもしれない。」と体が強ばりました。それはオーバーだ、過剰反応だと笑う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、集団的自衛権行使を容認する閣議決定は、内閣が主権者である国民の前で堂々と憲法を守りません、日本は法治国家ではありませんと宣言していることと同じです。

2.現行憲法は、近代自然法の思想をルーツとしています。近代自然法の思想とは、人間は生まれながらにして自由かつ平等であり、生来の権利をもっていて、人民はその自由や権利を守るために社会契約を結んで政府に権力の行使を委任しており、政府が権力を恣意的に行使して人民の権利を不当に制限する場合には、人民が政府に抵抗する権利を有するという思想です。現行憲法は、地位や身分や性別にかかわらず、ありのままの個人を尊重し、個人の権利や自由をあらゆる国家権力から守るために人権規定を置き、基本的人権を保障しています。また、現行憲法は、専制政治の下では基本的人権の保障が危うくなるので、国民主権の原理を採用し、代表民主制を採用しています。さらに、前文で「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」とあるように、憲法は第二次大戦を踏まえ、平和主義を基本原理として採用し、9条で戦争の放棄を宣言しています。命あっての、平和あっての人権保障なのですから、戦争の放棄も個人の権利や自由を守るために定められた規定です。このように、現行憲法は、基本的人権の尊重、国民主権、平和主義という三原則を明記しています。そして、現行憲法は、憲法が日本の最高法規であり、憲法に違反する法律、命令、規則その他の国務に関する行為は無効であると規定し、国の象徴である天皇や国家権力を行使する国務大臣、国会議員、裁判官、その他の公務員に対し、憲法尊重遵守義務を課しています。つまり、現行憲法は、国家権力を法的に制限して国民の自由と権利を保障しているのです。国民の自由と権利を守るために国家権力を法的に制限し、国家権力は憲法を守らなければならないという考え方を立憲主義といいます。近代自然法にルーツを持つ現行憲法の本質は立憲主義にあります。

3.憲法9条は戦争の放棄と戦力不保持を定めています。憲法9条の下でも、国民の生命・財産を守るという国家の義務を果たすため、自国が攻撃されたときに自衛のために反撃をする権利である個別的自衛権が認められるというのが現在の解釈です。これまでの政府見解も自衛のための最小限度の実力行使は憲法9条で禁じられた戦力には当たらないという解釈をしています。今回、閣議決定で行使を容認した集団的自衛権とは、自国は武力攻撃を受けていなくても、同盟国が武力攻撃を受けた場合に共同して反撃する権利のことです。自国が攻撃を受けていないのに、同盟国を攻撃する国に反撃することは「自衛のための最小限度の実力行使」とはいえませんから、これを行使することは憲法9条に違反します。どう「解釈」しても行使できることにはならないと思います。安倍首相の記者会見を聞いていても、憲法9条に違反しないという理屈は全く理解できませんでした。今回の閣議決定は、内閣が憲法9条を守りませんと宣言していることと同じです。憲法を守る義務を負っている内閣が国の基本原則である平和主義を閣議決定で変えるのです。立憲主義の否定以外のなにものでもありません。憲法9条が否定している集団的自衛権を行使するためには憲法改正手続きを経て主権者である国民の判断を仰ぐ必要があります。当初、安倍首相は憲法改正手続きを定めた憲法96条を改正して改憲のハードルを下げようとしていましたが、改正の機運が盛り上がらず、今回の解釈改憲という手法に切り替えました。このような解釈改憲がまかり通るのであれば、他の基本原則である基本的人権の保障や国民主権が否定される日も遠くないのではないでしょうか。そのような国は法治国家ではありませんし、時の為政者によって国の基本原則が変わるなどということは中世に逆戻りするかのようです。

4.郵政民営化であれだけ党内が真っ二つに割れた自民党からは、今回の閣議決定について党内が荒れた様子はほとんどありません。集団的自衛権行使容認に反対の意思を明示されたのは村上誠一郎氏ぐらいではないでしょうか。与党内で大きく荒れることもなく閣議決定に至ってしまったことにも危機感を感じます。自分の議席を守ることに汲々としているのでしょうか。私自身、仕事と育児に追われ、忙しい、忙しいと近視眼的に生活していた自分を振り返らざるを得ませんでした。戦争をしない日本を次世代に引き継ぐために、立憲主義を理解するまともな国会議員を選ぶこと、一票の格差をなくし議員定数不均衡を是正し、国民の声をきちんと国会に反映させること、弁護士になって実務に入ってからとんとご無沙汰していた憲法を勉強して周囲の人に広めていくこと、戦争体験を承継し平和の尊さを学ぶこと等々、やるべきことがたくさんあります。7月1日に息子を抱いて閣議決定のニュースに体を強張らせた自分を、20年後に後悔しながら思い出すことにならないように、少しずつでもできることからやっていこうと思います。

   以 上
(文責 弁護士 森直美)

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